第一書庫
□おひさまの抱擁
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※少々、厭らしい表現あり。自分が大人だと思う方以外はご遠慮ください。
「あ、バジル君!こっちに来てたんだね。いらっしゃい」
沢田家の玄関を開けながら「ただいま」と言って家に上がり、拙者の姿を見ると笑顔で挨拶をしてくださったのは、拙者の未来の上司であり想い人の沢田綱吉殿だ。
学校帰りの為、制服姿だった。
「お邪魔致しております。沢田殿」
「うん!ーーーあ、何かごめんね。母さんが家事を手伝わせちゃって」
そう言って、困ったような顔をして拙者の手元を見ていた。
今拙者の手には洗濯物があり、畳んでいる最中だ。
「いえ、お気になさらず。むしろ、頼まれて嬉しく思っています」
「そっか…ねぇ、オレもやる」
「え?」
そう言うなり、拙者の向かい側にペタンと座った沢田殿は、服を一着掴んだ。
「さ、沢田殿、拙者が奥方様から頼まれた事ゆえ、拙者が全て…」
「い、良いよ。て言うか、自分の服くらい自分でやるし…その、下着とかあるから…」
言われてから気が付いた。
目の前にある洗濯物の山。先程まで埋もれていたであろうそれは、拙者が気付かぬまま次々畳んでいった為か、白い肩紐が顔を覗かせていた。
拙者は沢田殿と同じく、顔が熱く火照っていった。
「すす、す、すみませぬ!!」
「う、ううん!平気!!その、バジル君だし…」
ーーーチクリ…
あ。
今一瞬、胸を掠めた痛みはきっと、『バジル君だし』という一言によるもの。
沢田殿の一言は、多分拙者を無害で良い人等の意味で、大丈夫と言ったと思われる。
けれど、沢田殿を想う拙者としては、男として見ていないと言われたようで、悲しく思えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ベッドの上に座ってて良いよ。正座しっぱなしだったし」
「では、お言葉に甘えて…」
洗濯物は二人で畳んでいったので、すぐに終わった。
奥方様やランボ殿にイーピン殿は、沢田殿が帰って来る少し前に『普段よりも遠くの』デパートへ買い物に出かけ、 リボーン殿はビアンキ殿とデートに朝から出かけていた。
その為、二人でただ留守番をするのも…という話になり、拙者は今、想い人の部屋のベッドに腰掛けている。
…以前は、色々あり、気にしていられなかったが、なんとも緊張するものか。
その上ーーー
「ーーーでね、その時京子ちゃんが…」
拙者の隣、肩が触れそうなくらい近くに制服姿のままの沢田殿が腰掛けて、最近あったことや、守護者の行動、学校のご友人の事を一生懸命話している。
拙者は緊張のあまり、適当な相槌しか打てずにいた。
ーーーこれも、男として見られていないが為の現状か…。
だとしたら、なんと虚しい事だろう。
沢田殿は酷いお方です…。
ーーーいっそ、想いを伝えて意識して貰おうか…。
そんな事を胸の内に呟く。
けれども、拙者が想いを伝えたところで迷惑をお掛けしてしまうだけ。
それに、沢田殿を想う者は多い。
「ーーール君、バジル君!」
「ハッ、ハイ!!」
「もー。ちゃんと聞いてた?」
「すみませぬ…」
「だから、ファーストキスはレモン味って、黒川が…」
「…はい?」
接吻!?
「それに、大好きな人に抱き締められたら、もう死んでも良いって…」
抱擁!?
「その話を聞いてた山本達が、試してみようって…」
顔を赤くしてもじもじと膝を擦り合わせて沢田殿はうつむく。
なんだか腹の内に黒々としたものが渦巻いた。
「…試したのですか?」
自分でも驚く位低い声で尋ねた。
沢田殿は拙者の声にピクリと肩を揺らし、拙者に顔を向けて答えた。
「…してないよ」
真っ直ぐな視線にドキリとした。
しかし、すぐにいつも通りのに戻り、「すぐに皆、乱闘起こして大変だったんだー」と言って笑った。
ーーーなんだか、こちらだけがドキドキするのは釈然としない。
ーーー拙者も意識して欲しいのに。
…そう思った時、拙者の中で何かが弾けた。
沢田殿の手首を掴み、驚いているところを仰向けに倒し、覆い被さるようにまたがり、彼女の顎に指を添え軽く上を向かせた。
「拙者で試してみますか?」