図書館からの寄贈本

□弟王子は海の国にて黄金色に想う
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ーーー予定していた半刻よりも早くアリババが執務を終えた。。



そして、アリババはサブマドを伴い、城壁の抜け穴を潜って城下に降りた。
……何で悪い事をしている訳でもないのに、わざわざ抜け穴を使うのだろう?とサブマドは思い、アリババに訊いてみれば、「何か疚しい事しちまったみたいでドキドキしねぇ?」と言われた。
彼曰く、その"ドキドキ"が未知なる冒険への"ワクワク"に似ているらしい……正直、初めての市井に只でさえ"バクバク"しているのに、更に"ドキドキ"を付け加えて欲しくなかったーーーそうサブマドは思ったが、言わないでおいた。
……しかし実際、それだけが理由ではなかった。
アリババは、サブマドを伴っての市井視察の許可を、現国王である自分達の父親に請うた時、"一般市民"として行うように言われたのだ。
国王もアブマドの視察(笑)には頭を痛めたのだろう。
だからと言って、別に抜け穴を使う必要は全くないが……。
さて、そんな彼等の頭を痛め付けたアブマドと言えば、国王と一緒に、アリババがサブマドを連れて市井視察に行く事を聞き『あのサブマドがでしかッ!!!?ちょっ、誰かカーメン老師を読んでくるでしぃぃいいいぃいいぃぃぃいッッッッッ!!!!!!!!!!』と叫んでいた。
……似た者兄弟である。
それはさておき、サブマドにとっての初めての市井は、目まぐるしく活気に満ちていた。





「ーーー寄ってらっしゃい!!パルテビアの金細工だよ!!」

「此方はエリオハプトの飾り石!」

「今日捕れたての魚!」

「煌帝国の絹織物はどうだい?」

「アクティアの壺!」

「レームの葡萄酒だ!今年の出来立てだよ!」

「白粉は如何?アルテミュラの戦乙女達の愛用品!!」





「ーーーす、凄い……」

「だろ?でも今、朝の市の終わりかけなんだぜ?」

「えっ、じゃあ、もっと活気付くの!?」





普段の細目をこれでもか!と見開くサブマドの驚きように、アリババは「おうよ」と答える。
それを見て、サブマドは再び目の前の市を見た。
食料品は勿論、生活に必要な物から調度品や装飾品まで幅広く、それらを売る者達は声を張り上げて、まるで競い合うようで、行き交う人々を見ていると目が回る。
しかし、盛りにはもっと賑わっているのだと、思い浮かべてみてサブマドはフルリと震えた。



ーーーあぁ、呑まれてしまいそうだ。



そう一人戦いていると、不意に腕を引かれ、市の開かれている大通りの脇道に足が向く。
サブマドの腕を引くのは、言わずもがなアリババだ。





「ーーー賑やかなのは苦手だろ?夕方の市ならもう少し落ち着いてッから、先ずは俺の実家に顔出さねぇか?」





自分を見て苦笑しながらそう言う兄に、先程まで意識を喧騒に持ってかれていたと気付いたサブマドは、慌ててコクコクと頷き、訂正した。





「ーーーアリババ兄さんの実家は"お城も"だからね?」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





ーーーその頃、城内にてアブマドは。





「ーーーあああああ……あの引き籠り体質で内気で臆病なサブマドが、自分から城下に行くとか、何かの前触れでし~~~~~」

「アブマド様、そう仰らず……サブマド様も御成長されたのでしょう。ここは長い目で見守るべきです」

「それもそうでしが……ーーーて言うか、何でバルカークが僕の所に居るでし?普通は兄上達を護衛するんじゃないんでしか!?」

「……『俺が城下に行く間、護衛を付けられたら"王子"を辞める』」

「……」

「若……アリババ様が城にいらっしゃって間も無くに御作りになられた決まり事です」

「………………………お前も苦労しているでしな」

「ハハハ……」

「ハァ……サブマドの成長は兄として嬉しいでしが、兄上みたく成長したら嫌でし。行動力は見習ってほしいでしが」

「サブマド様は人目に敏感な御方ですから、アリババ様程大胆にはなりますまいーーーしかし、成長した……と言うより、変わられたのはアブマド様もで御座いましょう?」

「……何処がでし?」

「ハハッ、アリババ様が来られる前よりも格段に、我等に声を掛けて下さるようになられました。それだけでなく、民達にも関心を抱くようになられたのでは?でなければ、"視察"なんてなさらなかったのでは?」

「そ、それは、ただの気まぐれでし!」

「ハハハ」
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