図書館からの寄贈本

□弟王子は海の国にて黄金色に想う
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ーーー強くなりたい。



金色が映えるような背中になりたいとまでは言わないけれど、願わくは、あの人に少しでも頼られるようにーーー





【弟王子は海の国にて黄金色に想う】





ーーー海洋国家バルバッドにて。



レームへの出立を数日に控え、それまでにと、己の執務をこなすアリババの耳に、控え目なノックの音が聞こえ、顔を上げる。





「ーーー誰だ?」

「あっ、アリババ兄さん、ぼぼぼ僕です……サブマドです」

「サブマド?」





オロオロとした声音の持ち主である、前回の人生に於いての兄であり、今回の人生に於いての弟となった彼に首を傾げる。
一体、何かあるのだろうか?と思いながら「どうぞ」と言えば、声と同じくオロオロとしながら、アリババの執務室に入ってきた。





「何か用か?」

「えっと、あの、その……」





口籠りながらも一生懸命言葉を選ぶサブマドを、アリババは黙って待つ。
そうしてそのうち「アリババ兄さん、は、今日も市井に……?」と、漸く訊いてきて、アリババは「そうそう、今日も」と答えた。





「……市井の視察は楽しい、ですか?」

「?ーーー楽しいし、俺の生まれた街だしな」

「そっか……」





うん、そっか……そう一人で頷くサブマドに、アリババが再び首を傾げれば、突然「アリババ兄さん!!」と、今までに聞いた事がない程のサブマドの大声に「ハイッ!?」と可笑しな声で答える。
それを気にせず、サブマドはアリババに願った。





「ーーー今日の視察(と言う名の里帰り)に、僕もついて行って良いかな!?」





「…………………………は?」





ーーーあのサブマドが……?



前回の人生での彼と負けず劣らず臆病で、他人を前にすれば、挙動不審さで右に出る者は居ないと言われている、"あの"サブマドがーーー?
……そこまで考え巡らす事、およそ0,2秒。
考えが纏まったアリババは、フッと笑むと、今居る執務室の出入り口に向かって行き、そしてーーー





「ーーー大変だッ!!サブマドがァッ!!ちょっ、誰かカーメン老師呼んでこいぃぃいいいぃいいぃぃぃいッッッッッ!!!!!!!!!!」





「ちょっ、兄さん!!!?僕、病気でも何でもないからねッ!!!!!!!!!?」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





ーーーサブマドの(アリババにとっては)問題発言から一刻。



アリババの叫びにより、数多くの侍女や官吏達が来たり、それによりサブマドが混乱し、本当にカーメン老師(スフィントスの祖父)が呼ばれたりしたが……割愛させてもらう。
何とか落ち着いた二人は、猫脚の机を挟んで、侍女長が淹れてくれたお茶を飲む。
……あ、煌帝国の茶葉だな、コレ。





「ーーーつまり、おや……父上に『お前も自分の眼で"国"を見ると良い』って言われたからか」

「うん、そうなんだ。王族として国政に少なからず携わるだろうから……」

「それでか〜」





……てか俺、親父が市井に降りたのを見たのは、前回も今回も、俺を城に引き取りに来た時しか知らねぇよーーー内心アリババはそう思い、アレ?と思い至った。
そう言えばーーー





「ーーーアブマドは?彼奴は言われてねぇの?」

「あ、アブマド兄さんは、そのっ、アリババ兄さんが煌帝国に行ってた間に、何度か市井に行ってたから……普段の格好のまま、従者を沢山連れて」

「…………………………マジかよ」





アブマドの普段の格好ーーー金糸銀糸の刺繍を施された、手触りの良い高級な絹をふんだんに使った服に、大粒の宝石の付いた装飾品を身に付けた姿で、しかも、武官達を大勢連れているのを想像し、アリババは脱力する。
明らかに"王族ですけど何か!?"と言うそれは、アブマドだからこそ、想像に難くなかった。





「ーーーあ、でも、彼奴にしては成長したって事かもな」

「うん。庶民嫌いだったアブマド兄さんが、自分から市井に行ったんだもん。凄いよね」





だから、僕も頑張りたいんだーーーそう言うサブマドの姿に、アリババは目頭が熱くなるのを感じる。
臆病な彼の、勇気ある願いだ……叶えない訳がない。





「ーーーよし……サブマド、半刻だ。それまでに仕事を全部終わらすから、準備しとけ!」

「!ーーーうん!!」





ーーーそしてアリババは、羽ペンを走らせる。
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