進撃short

□幸せだよ、今この時が
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※※※※※※※※※※※※

リヴァイには、お気に入りの場所があった

小城から少し離れた、草原の小さく丘になっている所

暖かな太陽が適度に当たり、風をほのかに受けるその場所が、酷く気に入っていた

潔癖症な為、本来草の上で寝転がるなど言語道断
しかしそこだけは、何故かその行為が許せた
むしろそこでの方が、寝心地が良かった


ペトラに書類を渡し、疲労回復に少々寝る目的で、リヴァイはその丘へと歩いていた


ーー、ーーー…


すると、その丘のふもとから何かが聞こえてきた


「あ…?先客か?」


ここを知っているのは自分だけではなかったか
と、少々落胆しながらも、その声の聞こえる丘へと歩んでいく


ーーー、ーーーー♪


声が聞こえてくるにつれ、その声が歌である事が分かった


ーー貴方に出会いstar輝いて 私が生まれて

ーー愛すればこそ Iあればこそ


「(…綺麗な、テノール声)」

透き通った、癖のない歌声
包み込むような、アルトとソプラノを中和したテノール

自然と、リヴァイはその歌声に聞き入っていた


丘を見てみると、その声の正体は意外にも良く見知った人物だった


「(…エレン、)」


書類にも記載しなければいけない監視対象の張本人

巨人になれる能力を持つ人間

そして、このリヴァイの恋人である、エレン


「ーー希望のない奇跡を待って どうなるの?」

「ーー涙に滲む 星の瞬きはgone…」


なるほど、確かにこの声はどこかエレンの面影がある

納得したところで、エレンの歌声がフと止んだ

終わりなのだろうか



「…なんだ、もう歌わねぇのか?」

「っ!!?…えっ!?あっ、えっ!?!!り、リヴァイ兵長…!!!」
どうやらエレンはリヴァイに気づいていなかったらしい

それでも兵士か、
と、リヴァイは少し渇を入れたくなったが、今はそんな気分ではないらしく


「…今の歌」

「え?」

「お前が作ったのか?」


民族曲のような感じではなかった
ならオリジナルか、とリヴァイかは感じていた


「あ、いえ…昔、母さんに教えてもらったんです。
母さんが歌上手で、よく歌ってて。…俺それが大好きで、子供の頃に歌教わってたので」


母さん、と言って
昔を思い出してるのか、少し切なそうな顔をした


「成る程な、お前の声は母親譲りか」

「え?」

「…いや、何でもねぇ」


そのままエレンの横まで行き、ボフンと草の上に寝転がった


「…寝る」

「あ、えっと…はい、じゃあ俺はこれで、」

「待て」


寝るのを邪魔しない為、その場を立ち去ろうとしたのだろう
それをリヴァイは、エレンの足を素早く掴み、離れて行くのを制した


「…歌」

「え?」

「歌、うたえ」


何でもいいから、と付け足して
リヴァイはエレンの手を持ち、グイッと引っ張りその場に座らせ
ぐっ、と身を乗り出し、エレンの膝に頭を置いた

「へっへへへいちょ…!!?」

「あ?」

「ひ、ひざまっ、くら…!!」

「…膝枕なんて今更だろうが」

ーもっとスゴい事もしてんのに
と言うと、ボッとエレンの顔が赤くなる


エレンとリヴァイは、すでにそのスゴい事を何度かするほどには関係が深い

だが、仕事柄普段は普通の上司と部下、しかもリヴァイは兵士長とだけあり中々私生活で会えない

だから趣味や特技なと、個人的な事はあまり知らないのだ



ーエレンの特技は歌、か


と、リヴァイは少し嬉しそうに、心の中で唱えた
「え、えっと…じゃあ、さっきの歌でいいですか?」
「構わねぇ」

「分かりました…」


エレンが折れたらしい、
先程の歌を歌うという返答は、リヴァイとしても満足のする返答だった



ス、と
歌う直前、エレンが目を瞑った
エレンの周りの空気が、変わったような気がする

そのまま、息を軽く吸って口を開きだした


1つ1つの動作に、リヴァイは目を奪われた



ーー神様に 恋をしてた頃は こんな別れが 来るとは思ってなかったよ

ーーもう二度と 触れられないなら せめて最後に もう一度抱きしめてほしかったよ




これ、恋曲か
と、リヴァイは寝る体勢で目を瞑りながら思った


(…恋曲なんざ興味ねぇ)

(…もっと甘くて、ハチャける様が鬱陶しいもんだと思ってた)

(…けど、エレンのは、)


ーーIt's long long Good-bye


(…綺麗、だ)


聞き入っていると、ウト…と、瞼が重くのし掛かってくる
眠気が襲ってきたのだろう

だが、もっと聞いていたい、と、睡魔に少し刃向かっていた


すると



ーーさよなら さよなら 何度だって

ーー自分に 無上に 言い聞かせて


歌いながら、ソッとエレンがリヴイ頭に手を置き、控えめに撫でてきた




無理しないで寝て下さいね、
と、促されてるようだった


(…まぁ、本人にそんな気はねぇだろうが…)


ただの無意識だろ、と、自己解決して

エレンの歌声を聞きながら、リヴァイは促されるまま意識を手放した
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