進撃short

□保健室に隠し事1つB
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それなりに、何となく分かってはいたんだ

父さんが、俺を見放してるって
俺の事を何とも思ってはいないって


俺は、それを認めたくないだけ

だから前に、リヴァイ先生に「育児放棄」と言われた時、すぐに否定したんだ

認めたら、それが全てな気がしたから






母さんが死んでから、父さんは仕事に明け暮れる一方だった

幼かった俺は、母さんが死んだら父さんしか家族がいなくて
だから、必死に父さんに好きでいてもらいたかった

だから、1人で留守番をして、ご飯を食べて、寝て、起きて、保育園に行って

近所の人や先生からは気にかけられたが、大丈夫だと言い張った

口を揃えて「偉いわね」と言われた
どうせ家柄が理由で心配しているだけなのだ



持病が出だしたのは、母さんが死んでから一年ほど経った頃だっただろうか

突然呼吸が苦しくなって、そのまま保育園で倒れた

病院に運ばれ、目が覚めると白衣姿の父親がいた


都内の、父が働く附属病院
父さんが仕事をしている姿を見るのは初めてで、嬉しい反面、絶望の気持ちでいっぱいだった


ー…忙しい父さんに、迷惑をかけてしまった

と。


父さんは最初に「どこも辛くないか」と聞いたきり、何も話してくれなかった

そんな父に、自分から話せる事なんて出来なかった



持病の原因は、母の家系の遺伝であろうが、呼吸器が弱い事

母さんの死亡理由も呼吸器から炎症をもたらした肺炎だった



父の顔は、悲壮というか、とにかく形容し難い表示であった。今でも覚えている


ナースの人からは
「持病だから治らないけれど、酷いものじゃないから大丈夫よ」
と言われた

診断結果は医者が言うものであり、担当の俺の父が言うものではないのか、
とナースの人に言ったら、
「グリシャ先生は忙しいから、別の病院に行ったわ」
と言われた



子供が倒れてもこれか

正直そう思ったが、それでも俺は父さんを信用してたし、信頼してた


父さんの腕を必要としている人がこの世界には沢山いて
父さんは、皆の命を救うお医者さんなのだ

凄い人なんだ



何度も何度も言い聞かせた

決して育児放棄されているんじゃない
父さんは忙しいから仕方ないんだ
大丈夫、ちゃんと帰ってくる


いつか、いつかまた、一緒に生活できる


信じて疑わず、今まで生きてきた




幸いにも時々帰ってきているらしく、生活費をこれでもかという程置いてくれている
生活に不備はなかった

いつ帰っているのかは分からないが、ちゃんと俺の事を生かしてくれているんだ
覚えてくれている、俺は、まだ愛されている


無機物な札束を握りしめながら、その事実を噛み締めて生きる糧にしていた






父さん、帰ってきたら話したい事がいっぱいあるんだ


俺、自分で持病に耐えられてるよ
偉いでしょ?凄いでしょ?
別のお医者さんとマンツーマンだったんだけどね、色々教えてもらったんだ

でも、どうしても体育は頑張りたくてね、つい無理しちゃって
それをあっという間に治しちゃう人がいるんだ

リヴァイ先生っていうね、顔は怖いけど凄い優しい保健の先生
いい人だよ、良くしてくれてて、尊敬できる先生なんだよ



ねぇ、もっと話したい事いっぱいあるんだ




ねぇ、だから早く帰ってきてよ




待ってるから、ずっとずっと、待ってるから




























帰宅した自宅の郵便受けに入っていたのは、茶色い茶封筒

リビングに置いてあったのは、通帳と白いメモ用紙だった

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