進撃short

□保健室に隠し事1つA
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「エレンー!!バスケやろうぜ!」

「おー!」



コニーからの誘いに同じた俺は、ドリブル練習を終えボールをしまい、Aコートにかけていった


体育館内は俺達2組と他クラス3組の男子生徒で溢れかえっていて、とても暑苦しい

ただでさえ空調設備なんかない体育館。
人が集まれば、そりゃあ暑くもなるのだが


ふぅ、と体操服の襟で汗を拭い呼吸を整える


今日は調子が良い
さっきもドリブルで走ったが、別段気持ち悪くなる事も呼吸困難になる事もなかった



「エレン」

「お、アルミン」

「大丈夫なのかい?バスケなんて過激なスポーツ…」

「今日は調子良いし、大丈夫だろ」

「…そう」



体調を気遣って声をかけてくれたのは、幼なじみの1人、アルミン


俺の持病の酷さも熟知している奴だ
だからこそ、こうやって毎回心配してくれる


たまにもう1人の幼なじみ…ミカサとタメを張るくらいの過保護っぷりを見せるが、基本俺の意志を尊重してくれる
ミカサなら問答無用で止めさせられるのだが



「僕は審判をするから、体調悪くなったら言ってね」

「さんきゅ」



コートの中から「お前赤な」という声がしたので、ゼッケンカゴの中から適当に赤ゼッケンを取り出しそれを着る

3、と書かれたゼッケンに「お、誕生月だ」と何となく思った。いや、本当何となく、特に深い意味はない



「エレン、どっちが多く得点入れるか競おうぜ」


コートに入ってすぐに勝負をふっかけてきたのは、いつもの事であるがジャンだ

ミカサの事で何かと俺を敵対視してくる。いい迷惑だまったく


「やだよ面倒くせぇ」

「あぁ?俺の申し出断んのかよ?それとも何、自信がないとかかぁ?」


ニヤニヤした表情でこちらを見下げてくる。とても腹立たしい

見え透いた安い挑発、構う事はないのだ
アルミンに身体の事で釘を刺されたばかり、自分でも無理はいけないと把握している



だが、そう言われるとそんな冷静な判断も出来ず。
戦いを挑まれるとどうしても相手をしたくなるのが俺の性というもので



「いいぜ…受ける」

「はっ!そうこなくっちゃな」



コニーが俺もやる!と言っているが、おそらくジャンは俺と勝負するのに意義があるのだと思う。とばっちりもいいとこなのだが

まぁ何だかんだでジャンは俺の体調の変化にすぐ気付くし、気付いたら即休ませて保健室まで甲斐甲斐しく連れて行ってくれる
良い奴なのやら悪い奴なのやら
気にかけてくれるなら初めから勝負など挑まないでほしい



適当にメンバーを集めたらしく、ベルトルトやライナー、マルコなどがこちらに近づいてきた

ベルトルトやライナーが敵になるとなると不利だな、体格差がありすぎるし…
と危惧していたがそれも無駄な心配なようで、2人共赤ゼッケンを着ている。ラッキー

人数的に3on3だろう、尚更分が良いな


「よろしく、エレン」

「おー」



「じゃあ始めるよー!!」


アルミンが吹いたホイッスルの音が、ミニゲーム開始を告げた


ボールは味方のベルトルトから
フォーメーションは何も考えてなかったが、どうやら相手チームはマンツーマンでくるようで、それぞれ1人ずつにディフェンスがついている


もちろん俺には、あの馬面がついている訳だが…



「エレン!!」

「っし」


ドリブルして敵陣に攻め込んだベルトルトが俺にパスを出す

キャッチした俺は直ぐに右手にボールを託し、バウンドさせながら体勢をたてる



「まずは1回目、だな」


ジャンがさぞ楽しそうに俺を見てくる


「そうだな」


適当に相槌を打ち、左足に重心を傾け攻め込もうとするとジャンもそれに反応して道を塞いできた

それを即座に左手にボールを切り替えターンしながら避け、そのままタッグインで前に出てレイアップ

1回目はあっけなく俺の勝ちだった



これで更に闘志を燃やしたのか、そこからのジャンの本気っぷりは凄まじかった
実力とか技能とか、そういうのが凄いんじゃなくて、なんつーか、気迫?のようなものが


けどこちらも負けるのは真っ平なので、それ相応にやり返した
自分の持病の事なんか、考えもせず














「はい終了ー!!」

ホイッスルで終了の合図を出したのもやはりアルミンだった

点数は30対30、引き分け
だがジャンとの個人的な勝負は8対10、俺の勝ちとなった



「っ、は、はぁ…」


先程まで走っていた身体を止め、歩きながら呼吸を整える
ー…が、上手くいかない

試合をしていた時は気づかなかったが、ハードな運動で結構身体に無理をさせてしまったようだ
息が上がる、呼吸が乱れ酸素を取り込むのに必死になる

「くっそ負けた…!!エレン、次は勝つからな!」

「、あぁ?、っは…」


ジャンのそんな宣戦布告のような声が遠く聞こえるくらい意識は朦朧
呼吸は相変わらず規則正しくねぇし、視界もボヤけてよく見えない


ー…今日は体調良いと思ったんだけどな


そう思った時には、もう遅かった



「っは!ぁ、っひゅ、かはっ、ひゅ、」


ガクンと膝に力が入らなくなり崩れ落ち、そのまま体育館の床へ倒れ込む

視野いっぱいに床のラインと人のシューズが広がった


「エレン!!」


一番に反応してこちらへ来たのは、当たり前であるが一番近くにいたジャンで
…いや、さっきの俺の返答でかなり顰めっ面をしていたから、大体想定はしていたのだろう
近くにいたから、ではなく、感づかれたからだ


ジャンの他にもアルミンやコニー達が一斉に駆け寄ってきた
瞬時にアルミンとジャンが「常備薬をこいつのロッカーから持って来い」だの「リヴァイ先生呼んできて」だの、周りに指示を出す

そんな光景を、息を荒げながらまるで他人事のように見ていた



“ワックス掛けをしたばかりの独特の床の匂いが鼻について気持ち悪ぃ”と体育を始める前にアルミンと喋っていたが
その床がこんなに近くにあるのに全く気にはならなかった、それくらい意識は呼吸に行っている

だが、どれほど意識を集中させても呼吸は整わず、逆に酸素を取り込む事に必死で過呼吸症状も引き起こしそうだ



あぁやっぱり、リヴァイ先生に言われた通りに、体育中でもポケットに常備薬を入れておけばよかった


そんな事を思いながら、薄れていく意識の中彼の顔を思い出す




「イェーガー」



声が聞こえたのは、俺がその顔を頭の中で思い出しているのと同時だった


「イェーガー、しっかりしろ。俺が分かるな?」

「ぁ、っは、っひゅ、」

「落ち着け、俺の声に合わせて呼吸をしろ。
すって……、はいて……、すって……」



口に先生が持っている俺の常備薬の替えの器材を当てられて、促されるままに呼吸をする

先生がゴム状の小さな風船のようなものを押したり離したりする事で、当てられたその器材の穴から酸素が機械的に出てくる

少しミントの匂いもする。この器材に薬が塗りつけてあるからだ

リヴァイ先生が来た事と、その先生の声が聞こえる声と、自分の常備薬がある事


それが精神安定剤にもなり、俺は徐々に落ち着きを取り戻していく



「、は…は…」

「…よし、よく頑張った」


くしゃ、とおもむろに頭を撫でられる


それにホッとして、俺は自然と意識を手放した


呼吸困難で意識を手放すのではなく
体力的にも疲れ、身体が休みを求めているという事と
至極、安心したから




目を閉じる前に見たリヴァイ先生の顔は、とても穏やかな笑みを浮かべていた
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