進撃short

□present for you
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「ペトラさんっ!!」


突然の私を呼ぶ声に振り向くと、タタタタッと笑顔を振りまいて走ってくる部下の姿が見えた


うんうん、今日も我らの部下はぐうかわ




「エレン、どうしたの?」


「これ、さっき市街地に買い物に行ったら花屋のおばさんが沢山くれたんです!!良かったらどうぞ」



そう言って渡してきたのは、真っ白な花弁が比較的大きく、中央から外側にラッパ型に広がる百合の花だった



「綺麗!!これ百合よね、久しぶりに見たわ」


「季節外れですが、姫百合です。良ければ部屋に飾ってやって下さい」


「ありがとうっ、大切にするわ」



そう言ってその姫百合を受け取ると、エレンは少し恥ずかしそうに「ヘヘッ」と笑った


あぁぁ、何て可愛いの



「他にも沢山あるけど…班の皆にあげるの?」

「はいっ、本当色々頂いたので…後で訓練の時にでもお渡ししようかと」

「そう!!きっと喜ぶわ」


「そう言ってもらえると安心します」



では、と言ってエレンは廊下を走って行ってしまった

おそらく今からオルオ達と訓練なのだろう、私は今日非番なので訓練はない



「部屋に飾ってこよっと」



可愛い可愛い部下に貰った姫百合にテンションが上がりながら、私は自室を目指した











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「遅いぞ、ガキ!!」


「す、すみません!!」



「そう言うなよ、エレンはさっきまで物資の調達に市街地まで行ってたんだ、仕方ないさ」



遅れて来たエレンに即座に反抗したのはオルオだった

それをすかさずグンタが宥める


「無事に全部買えたか?」


「はい、問題なく」

「なら良かった」



買い出しの報告を聞いたのはエルドで、エレンが来る前にアップを済ませたのか、額には少し汗が流れている



「よし、じゃあ始めるか」


「宜しくお願いします!!」


基本指揮をとるグンタのかけ声を合図に、エレン、オルオ、エルド、グンタの訓練が始まった
















「よし、今日はここまで!!」

時刻は午後5時、夕日がそろそろ傾き出すくらいの頃合いだった


終了の合図がかかった途端に、エレンが地べたに座り込む



「つ、かれた…」



ジャケットは早々に脱いでおり、シャツ一枚となったその服はべったりと肌に張り付いている


不快に感じたのか、エレンはその服の裾を持ちパタパタと扇ぎだした




「けどエレン、体力がついてきたな」


「本当ですか!?」

「あぁ、おかげで後半にも一本取られたしな、格闘」



エルドが褒め言葉を漏らした瞬間に、エレンが目の色を変えエルドを見つめてくる


褒められてるのが嬉しいのか、少し頬が赤くなっている

照れているのだろう




「あっ、ちょっとここで待っていて下さい!!
皆さんに渡したい物があるのでっ」



照れていたと思えば、エレンは突然立ち上がり古城の中へと消えてしまう


何だ?といった表情で3人は顔を見合わせ、エレンの帰りを指示通り待つ




帰ってきたエレンの手元には、3種類の束ねられた花が抱えられていた





「どうしたんだ?それ」


3人がまじまじとその花を見つめている中、最初に問いかけたのはグンタだった



「えっと、買い出しに行った時に通った花屋のおばさんが沢山くれたんです
ペトラさんには先程あげたので、こちらは皆さんに」



何時間か前にペトラにした応答と似たセリフを言う

そして、その3種類の花を1種ずつオルオ達それぞれに渡していった




「オルオさんのは竜胆、エルドさんのはアルストロメリア、
グンタさんのはグラジオラスです」




それぞれの花を見て、まずオルオが口を開いた


「俺のだけチマッこいんじゃねぇか!!?」


「えぇっ!?いや、そんなつもりはなかったんですが…!!」



まさかの文句に、エレンも対応しきれないようでオドオドする

それを笑って見ていた2人は、ようやくオルオを慰めにかかった



「まぁまぁオルオ、文句言うなよ」


「そうだぞ、貰えただけ感謝しないとな」

「チッ…」




舌打ちを1つしたオルオは、それでも貰った竜胆を大切そうに触っていた


何だかんだで嬉しいんだと、エルドとグンタは分かっていた




「ありがとうエレン、部屋に飾るな」

「大切に育てる」

「まぁ…部屋に置くくれぇなら邪魔になんねぇだろう」


「はいっ!!ありがとうございます!」


「じゃあ、そろそろ古城に戻るか。夕飯の支度だ」

エレンに貰った花を大切そうに、それこそちょっと風が吹いたら「花弁が落ちる」や「形が歪む」など過剰に花を気にしながら、3人は古城に戻っていく



その光景に少しこそばゆくなりながらも、嬉しそうにエレンは先輩3人の後を着いていった











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夕飯をリヴァイ班の面々で取っている際、唐突に口を開けたのは、他ならぬリヴァイ班のトップ…リヴァイ兵士長様だった


「すげぇ甘ったるい匂いがそこらじゅうからする」



こう言った瞬間、エレンの身体がビクッとした



「甘い匂い…?あぁ、多分花の匂いだと思いますよ」


シチューを食べるのに使っていたスプーンをひとまず皿に置き、ペトラが答えた



「花?んなもん庭から摘んできたのか」

「違いますよ、エレンから貰ったやつです。」



ペトラに続いて、グンタもリヴァイの質問に応答する



するとリヴァイは、まるで豆鉄砲でも食らったかのように目を見開き、かと思えばお次は眉間に皺を寄せてグンタ達を見てきた



「エレンから、花…?」


「あれ、兵長も貰いましたよね?花屋でエレンが沢山貰ったからって俺達にお裾分けを…」




「…貰ってねぇ」


「「「「え?」」」」




今度はリヴァイ班4人の顔が豆鉄砲でも食らったかのようになる


4人からしたら、まずリヴァイこそ一番にエレンから花を貰っただろうと想定していた


2人は所謂恋人同士というやつであるのだから




4人がそのリヴァイの恋人であるエレンを見てみると、彼は顔から冷や汗を流してフルフルと震えていた




「へっ兵長にはっ、後で渡そうと、してまして…ですね」



幾分声が変に裏返っている

顔も赤いし、目線もあちこちに泳いでいて



明らかに動揺しているのが見て取れる







「…エレン、まさか俺には無ぇとか言うんじゃないだろうな」


「それは違います!!!」




動揺していたかと思うと、いきなり顔を上げてリヴァイの言葉を否定する


リヴァイ班のエレンを除く5人は、わけが分からなかった



食器をガガガッと1つにまとめ、それを持ってエレンがガタッと立ち上がる





「あっ後で渡しに行きますから!!では失礼します!!」



言うや否や、エレンは顔を赤らめたままそそくさと食器を流し台に置き食堂を出て行ってしまった





「…何だあいつ?」

「さぁ…良く分からん」


「エレン、どうしちゃったのかしら」

「本当はリヴァイ兵長への花は無ぇんじゃねーのかぁ?」


「ばっ!オルオ!!死に急ぎすぎだ!!」




取り残されたリヴァイ班面々は、風の如くいなくなったエレンの一連の行動を全く理解出来なかった


オルオが失言をしたせいで、またリヴァイに皺が増える

鬼の形相と形容するのが一番しっくり来る顔だ












「いやー!!すっごい動揺してたねエレン!!可愛いなぁ」


「「「「っ!!」」」」

「あ?」



突然、重い空気に能天気な声が響き渡る



一斉に入り口へ顔を向ければ、そこには巨人好きでおなじみの分隊長であるハンジが立っていた




「ハンジ…てめぇ何でここにいんだ」


形相はそのままに…むしろ更に機嫌が悪くなった顔をハンジに向ける


そんな事は当本人は全く気にしないようであるが



「おーこわこわ!いやね、次の実験の資料を持ってきたんだけど食堂に入りづらくてさぁ!!あんな話してるしあんな空気だし!!で、待ってたらエレンがもの凄い勢いで飛び出して来てね」



「つまりは最初からいたんだな」


「うん」



悪びれもなくそう言い切るハンジに、5人は溜め息をつく


そういう人だと分かっているが、しかしいつでもどこにでめ出てこられるとさすがに不気味である


奇行種とはこのような人にもピッタリな言葉だ





「しっかしあれだ、エレンは本当に照れ屋だねぇ!!」






ハンジの不可解な発言に一同が「は?」となったが、それを飲み込む


それを察知したのか、ハンジは言葉を続ける




「だってエレン“花屋のおばさんに貰った”って言ってたんでしょ?」


「?はい、沢山くれたからお裾分けって…」



「違う違う!!あれぜーんぶエレンが選んで自腹で買ったんだよぉ!!」







「「「「「は?」」」」」




今度こそ声が出た


リヴァイ班5人は仲良く、一瞬で豆鉄砲でも食らったかのような顔になった
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