進撃short

□少年の歌声は【前編】
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「『演唱民』、ですか?」

「そうだ。極稀にいる『歌で人の傷を癒やす声の持ち主』の事だ」



エルヴィンさん曰わく
どうやら、俺の声は少し特別な声帯だったらしい


いや、この場合俺がというより、母さんの家系が、かな



「君の母君は…マルバリュス区の人なんだよね?」

「はい、今はもう無人になったって、昔母さんが言ってました
それに、種族も残りは母さんだけだって…」



「…文献には、その区の種族は歌声で傷を治したり、はたまた巨人を攻撃したりも出来たと書いてある
エレンに巨人を攻撃する能力があるかは分からないが…治癒できる能力は、確かにある」


「はぁ…」







事を辿れば2週間前に遡る



最近ではリヴァイさんに歌を聞かせるのが日課になってきていて

歌っていうか、子守歌?
とにかく、その日もあの丘の上に行って、リヴァイさんに歌を歌っていた



そこに、リヴァイさんに用があったのか、エルヴィンさんが資料を持って近づいてきた


俺は近くにエルヴィンさんが来るまで全く気付かなかったが、リヴァイさんがいち早く気づいて俺の口を手で塞いだ

んぐ、と、くぐもった声がでた


が、どうやらそれも一歩遅かったらしく


「今の歌はエレンかい?綺麗だったよ」

「ん、ふぁりふぁとぅごふぁいまふ(ありがとうございます)…」


「ちっ」



兵長は何故か苛立った様子だった。どうしたんだろうか


「あれ…兵長、手首の傷治ってますよ」

「ぁ?」

「ほら、さっき本棚整理してる時に雪崩てきた本弾いた時に出来た打撲みたいなの…」


「…確かに痣がねぇな、痛くもねぇし…」


ブラブラ、と兵長は手を振ってみるが、痛くはないらしい



「…おや?私の左手の噛み跡も治っているね…痛くもない」

「噛み跡?」

「知り合いが飼っているラブラドールに噛まれてね」

「何やってんだお前…」

「にしても、不思議なものだな…」




とまぁ、そんな奇妙な『傷が治っている』という現象が起こった




不思議に思ったエルヴィンさんが理由を突き止めるべく、ワザと怪我をして、その日の傷を逐一観察するという実験じみた事を何日かしたらしい




すると、その傷が治る瞬間というのが




俺が、歌っている時だったらしく


そこから探求心のあるハンジさんが、書物を片っ端から漁ったら、母さんの種族についての書からその手の話を見つけたらしい




…弁明しておくが、調査兵団はそんな暇な集団ではない
忙しい合間をぬって、色々してくれたのだ


決して、暇な集団では…な…ない






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…と、説明もこのくらいにして

とにかく、俺の声帯は人の傷を癒やす作用があるらしい


エルヴィンさんとハンジさんはそれに興味を持ったらしく、次の壁外調査でその能力を使うという提案を持ちかけてきた


俺は別に…というか、いつもみたいに歌うだけだし…



おもむろに、チラッと横にいる兵長を見てみる



うわ、


兵長の顔はまさしく「腑に落ちない」というような表情をしていた




「戦場で歌うなんざぁ場のモチベーション下がんだろ、気にくわねぇ」

「傷を治す、という作用は大切な事だ、いつでも万全の身体で巨人に挑める」

「傷を無くせると知ったら兵士は気を緩めんだろーが、死者数が増えるだけだ」

「逆に傷が癒えるという事で希望が持てる。巨人に勝てるかもしれないという希望がね
希望は何より兵士にあるべきものだ」

「けどなぁ、」


「これはもう上にも話を通してある、許可もいただいた
拒否権はないよ、リヴァイ」




上司同士の言い合いに、居心地が悪くなる

ハンジさんはその2人を見つめて、ニヤニヤと笑っているけど


…この場合、俺はどうすれば…




主題の声の持ち主であるから、気を利かせて退室…なんていうのは間違いだ

…突っ立っているしかない




「…おい、エレンよ」

「あ、はいっ!」


突然兵長から声をかけられビックリした

慌てて態勢を整え、軽く左胸に手を当て敬礼をする



「お前はいいのか?」

「へ?」


「歌…上手いとは言え、皆の前で披露する事になんだぞ
居心地悪くねぇか」




いやいや、今も十分居心地悪いです


そう思ったが、言わないでおく



「確かに場違いな感じがしますし、良い気分ではないでしょうが…
それで巨人が一匹でも多く駆逐出来るなら」


強い意志を持って、兵長を見る



「…そうか」


その、一言だけだった

少し兵長の声のトーンが下がった気がする
何でだろうか




「次の壁外調査は来週だ。それまでにどこでエレンに披露してもらうかを伝える」


「…あぁ」

「分かりました」



とにもかくにも、その日の呼び出しの一件は終了した


兵長の、浮かないというか解せないというか、いつもより一層悪い顔色が、少し心残りだった



















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一週間後、その壁外調査が来た


後方中列の、一番安全な所にリヴァイ班が置かれている


おそらく、歌うその時まで危険に晒さない為だろう




「次のチェックポイントで出番だ…
エレン、いけるか」

「はい、大丈夫です」



あれから、いつもの兵長へ歌を聞かせる日課の時に、何度か治癒目的を兼ねた実験をしてみた

兵長がワザと手を軽く切ったり、骨折したウサギをそばに置いてみたり…死人を置いてみたり



結果はというと、死んだ人間以外は大方治せる
動物も大丈夫だった


ただ、重症患者は治せない、病とか死にかけとか

だから、この『治癒を取り入れた作戦』というのは、一部の人にとっては酷だと思う


周りは回復して、自分だけ息絶えていくのだから





「…着いたぞ」

「はい」


来てみると、見張りをする兵士以外は中央に集められている


…こんな所で、こんな疲れ切った大衆の前で



予想はしていたけど、いざ本番となると強張ってしまう


「大丈夫よエレン」

「ペトラさん、」

「自分を信じなさい。私達が何かあったらすぐ対処するわ」

「そうだぞ、だから精一杯やってこい」

「エルドさん…」



リヴァイ班の皆が、足が竦む俺を後押ししてくれる

暖かい表情で、俺を見つめてくれる



そうだ、俺は今、出来る事を出来る限りやらないと


「はい…いってきます!!」



ペトラさん達を横目に見ながら、俺は兵士の集まる場所の先頭に走って行った











「エルヴィン団長」

「やぁ、エレン」


先頭にいるエルヴィンさんの横に立つと、周りの兵士が見渡せた


前から後ろにかけて、怪我のレベルが違う
前にいる兵士の方が、酷い怪我をしていた



「皆には説明をした…あとは君が御披露目するだけだ」

「、はい…」



兵士の群から、あれやこれやと話が飛び交うのが聞こえる

「巨人化だけじゃねぇのかよ」や、「ここまでくると遂に人間じゃねぇな」や、「治癒なんてありえねぇだろ」など


気持ちは分かる、
巨人化できる化け物が、お次は人間を治癒するんだ
疑いたくもなるだろう




「大丈夫かい?」

「…今になって泣き言も言えませんし…
それに、リヴァイ班の皆さんもいるから、大丈夫です」


「…そうか」


ポン、と頭に手を置かれ、そのまま撫でられる



「…それでは、頼むよ」

「はっ!!」


ダンッと敬礼をして、兵士達に向き直る




目をつぶって、唄う事に集中する

一呼吸して、もう一度息を吸う




…ダイアモンドクレバスは、歌わない
あれは、あれは…あの人の、ための









――…私の名前を 1つあげる 大切にしていたの


――…貴方の言葉を 1つ下さい さよならじゃくて



チラ、と片目を開けてみると、前方の兵士の傷がゆっくり消えていくのが見える


よかった、うまくいきそうだ







俺が歌った曲は、昔母さんに教えてもらった、別の曲だった














※※※※※※※※※※
ダイアモンドクレバスとか、蒼のエーテルとか、マクロス曲オンパレードでさーせん!!

後編に続きます

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