ガンダムW

□Endless Waltz
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綺麗に晴れた冬の空。
街は人々で賑わう。
子供のためにプレゼントを買う親、愛しい彼氏彼女のためにプレゼントを用意する者、自分のご褒美のためと買う者。様々な人々が今日、明日街中を埋めるだろう。


数年前、俺達はブリュッセルでマリーメイアの起こした反乱を止めようと必死で戦っていた。それが今では戦争はなくなり、武器の放棄もされたが事実これからずっと戦争がなくなる訳では無い。それに、幼い頃から戦争のために、OZを倒すためにと育てられてきた俺達はもういらない。だが、守るために使えるのならばそれに徹しよう。そう決めてプリベンターに入った。

戦争が起きたあの日からやっとこうして二人でゆっくり出来る日が来たのだ。
大事な恋人、デュオと共に寝るために買ったキングサイズのベッドに入っているがその姿はやはり幼子の様だ。もとより童顔が寝ている姿と顔はより一層幼く見える。
いつもならコバルトブルーに輝く双眸はまぶたの下に眠っている。

この2日間はデュオのために、と毎年決めていた。いつもは仕事ばかりであまり相手をしてやれない。それはおそらくデュオも同じだ。アイツの前では言えないが、足りない。
だが、そろそろ昼に近いので起きる前に昼食を作ってやろうとベッドから降りようとした時だった。不意に服の裾を引っ張られる。

「起きていたのか?」
「ん...正直まだ眠いぜ」
「昼食を作ってやるからそれまで寝ているか?」
「いや、ヒイロと一緒に寝てたい」
「......だめだ」
「へ?」
「今日はお前を連れていくところがある」

俺は寝られん。
そう言い残してキッチンへと向かった。

遅めの昼食を取り終えて、ヒイロには別の用事があるため夜の8時頃にとある建物の前まで来いと告げられ、訳の分からないまま話は終わった。
あまりにも急すぎて訳が分からない。
デュオはまだ冴えない頭で言われたことの反復をしていた。

あれから家を出れから彼はドレスショップに来ていた。デュオに見つかれば似合わねーwwwwwwと言われるだろうと思う。自分のもそうだが何よりデュオのものを買いに来た。

「お客様、なにかお探しですか?」
「黒のドレスを」

死神が纏う漆黒の美しいドレスを。
アイツに着て欲しい。その願いと今日の願いを叶えるためだった。
ご丁寧に靴、アクセサリーなども揃える。

あとは、自分の用意と−−−だけだ。
静かに笑い、店を出た。

デュオはまだ時間ありそうだなーと言いながらケーキを作っていた。甘い物をそこまで好まないヒイロのために基本的にブラックチョコレートで仕上げる。ケーキのそうの間にはオレンジやイチゴなどを挟む。無言だけれども、少しだけ笑っているヒイロを想像しながら作るのは何より楽しい。それが秘密で作っているならなおさらだ。

「よぉし!ここまで出来りゃあ上出来だな!」

あとはー、風呂入ってー出かけるだけだな。と言いながらつくり終えたケーキを冷蔵庫にしまい、風呂場へと向かっていった。


冬特有の短い昼、橙赤色の空も藍色や紺色に染まり始めた頃さらに街には人が増えた。
時間通りにとある建物前でヒイロとデュオが再会する。周りと違い不思議なくらい中は静寂に包まれていた。

「なあヒイロ、ここは...」

街からそう遠くはない、外見は普通だけれど既に廃墟と化していた大きな舞踏会会場。光源は月明かりのみ。
そして、おもむろにヒイロはデュオに今日買った衣装一式を渡す。

「なんだこれ」
「いいからそれを着て来い」
「...嫌な予感がするんですがねぇヒィさん」
「うるさい、さっさとしろ」
「へいへい、わかりやしたよっと」

頑固なヒイロに付き合ってたんじゃキリがねぇやと言いながら近くの部屋へと入っていった。おそらくは何かのリハーサル室かなにかだろう。衣装替えの部屋にしては広すぎる。
先程渡された袋の中身を確認すれば、確かにそれは女性ものだった。

「あの野郎、後で覚えてやがれ...」

こんなドレスなんて着せやがって...と思いながら衣服を脱ぎ着始める。恐ろしいくらいにピッタリでサイズに違和感がない。付属のアクセサリーなどもあり疑問がどんどん膨らんでいく。

何故このような場所でこんな服を用意されて...一体何をするつもりなんだ。

三つ編み部分にドレスの色とは対称に白い薔薇を埋め込んでいく。再びヒイロの元へ戻る。
が、彼の姿が見えない。

「ヒイロー?どこにいるんだ?」
「ここだ」

光源が一切ないこの場所では互いの姿がはっきりとは見えない。
ヒイロに手を掴まれ、誘導してもらう。

そんなに遠くないところの扉を開けば、中はステンドグラスの装飾が施された美しい広間。ステンドグラスからさす月の明かりがこの場所を聖域のような雰囲気にしている。
そしてようやくお互いの姿を確認すれば、ヒイロもまた白い燕尾のような服装をしていた。

「...やはり似合うな」
「一体これはどういうことだ、ヒイロ」
「俺の我儘に付き合ってくれ」
「んなのいつもの事じゃねぇか」
「ならいいな?ほら、手を掴め」

いきなり何をするのかと思えば手を掴めと言い出す。ここでようやく何をするのか掴めた。こんな広い月明かりしかないホールで、たった2人で踊るつもりなのだと。

「輪舞曲はいけるな?」
「はいはい、行けますよっと」

デュオは静かに微笑んで差し出されたヒイロの手を取り、ゆっくりとステップ踏んでいく。

音楽もない、人もおらずたったニ人だけの今のこの場所。
誰にも邪魔されず、二人だけの世界で踊り明かすのも悪くない。
それが一番愛する者と一緒ならばなおさらだ。

漆黒のドレスがターンをする度に美しく一輪の華のように広がりを見せる。その裾を踏むことは無いヒイロ。そして不意に口を開いた。

「デュオ、左の手をこちらに向けろ」

そう言われ素直に左手を出せばいつから持っていたのかシルバーリングを薬指にはめた。

「!?」
「もう、誰にも渡さない。渡す気もないからな」

相変わらずの真顔だが、少しばかり赤くなっていた頬。
ステップをやめデュオはヒイロの口元へ自らの唇を重ね合わせる。

「ふっ...んっ......」

かなり長かった気がする。けれど、まだ。まだ足りない。気付けば二人とも腕をまわしていて、お互い離れる気はなかった。

「ヒイロ...好きだ。愛してる」
「俺もだ、デュオ」

珍しく静かな微笑み顔を浮かべたヒイロにデュオも胸が高鳴る。そう、美しすぎるのだ、彼の笑みは。

額を重ね合わせ、静かに目を閉じる。まだ、もう少し二人だけの世界で。無音で雑音のない二人だけの世界で踊っていたい。

そして再び踊り始める。ずっと同じ輪舞曲を。


マリーメイアの起こしたEndless Waltzなんかじゃない。


二人だけの世界で始めたEndless Waltzは未だに終わらない。




End
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