私はいつも、貴方の側に
□0.プロローグ
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美しい満月が明るく輝く、生き物達が寝静まったころ―…
港町を見下ろすように存在する森の奥深くにある泉は、ゆらゆらと月を映し出していた。
泉の周りには日中あまり姿を現さない動物達がゆっくりと時を過ごしているそこは、どこか神秘的であった。
…一瞬、地面の草花が揺れた。
それに同調するように森の木々もざわめいていき、何か感じたのか一斉に動物達は泉から離れていく。
きづけば泉の水面上には、黒い人影があった。
彼…いや、彼女だろうか。その人物は何やら小さな布の塊を抱き抱え、ゆっくり地に降り立つと、目にも止まらぬ速さで走り出した。
だが、ふとその人物は足を止めた。目の前には月明かりに照らし出された、威圧感のある巨大な屋敷。
「ここなら……きっと大丈夫ね」
凛とした、明らかに女性だと分かる声の持ち主は、布の塊をギュッと抱きしめ屋敷の鉄格子の門前に立った。
門は彼女を引き込むように音をたてて開いた。
そんな奇怪なことに驚くこともなく、彼女は屋敷へと歩き始めた。
その足取りには決して揺るぐことのない強い決心の気持ちが表れていた。