壊れた世界、希望の国

□第五章
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「テメーら、よく聞けよ、一回しか言わねーからな」


大きな音を立て、松平はテーブルに大きな紙を広げた
口には煙草を加え、手にはペンを持ちクルクルと指先で回している

その松平を中心に、隊士達が紙を覗き込む形で幾重にも壁を作り、テーブルを囲んでいた
広げられた紙には乱暴に地図が描かれている


「なんだこの絵は…これじゃ何がなんだかわからねェ」


土方が顔をしかめるのも無理はない
その地図らしきものは、大きさの異なる四角が、いくつか描いてあるだけのものだったのだ


「男は、これくらい雑な方が良いんだよ」

「よくねェよ!!」


土方はペンを奪い取り、松平に確認を取りながら四角の中に名称を書き足していく
その様子を、身を乗り出して見ている隊士達
どうだ、とばかりにペンを置いた土方の横には、立派な地図が出来上がっていた
松平はやれやれと煙草を灰皿に押し付けると、指で絵をなぞりながら説明を始める


「明日のそれぞれの役割を説明する、まず店の周辺は通行止めにしなきゃならねェ、その役目を四番隊、五番隊」


この『店』とは、松平が茂茂と共に行く予定であったスナックのことだ
『すまいる』と書かれた四角の中を、松平は指でトントンと叩いた


「そしてまずは此処、店前に一番隊が待機、但し此処で戦り合うわけじゃねぇ…あくまでフェイクだ、だが奴等に怪しまれないよう、裏もしっかり固めとく、裏は二番、三番隊だな」


沖田をはじめ、それぞれの隊長の永倉と斉藤が返事をした


「で、そこに俺と影武者が乗った車をつける、運転はトシ、テメェだ」

「わかった」

「おそらく、奴等は俺達が車を降りたところを狙ってくるだろう、つまり店に入ることはねぇからよ、明日ねぇーちゃん達は居ない、公にはしてないが臨時休業にしてある…一般人を巻き込むわけにいかねェからな」


新八もその情報は、すでに知っていた
姉のお妙から話を聞けば、真選組から臨時休業の理由は話されていないらしい
だが、お妙は気にすることもなく、新八に問いただすこともせずに、ゆっくり出来ると呑気に休みを嬉しがっていた


「それでだ、いよいよ奴等が襲ってきたら、ある場所まで車で引き付ける、町中で戦闘は避けたいしな、数で勝負の俺達にとっても、この場所は不利だ」


数で勝負、という言葉に反応をしたのは沖田だけであった
皆、相手との実力差を痛感しているのだろう
その様子に馬鹿らしくなり、沖田はすぐに視線を地図に戻す







松平の指がスルスルと動き、見えない道順を描くと、ある場所でピタリと止まった
そこに大きくバツを描く


「そこで待っているのが、ゴリラと残りの隊」

「ゴリラ!?ゴリラって言った今!?」


松平の横で泣きそうになっている近藤を尻目に、土方は少々納得がいかないように、首を傾げた


「残りの隊…つまり半数か、多いな」

「当りめぇだ、相手は高杉と白夜叉だからな、それにこの場所が戦闘場所になるんだ、店の前なんぞ飾りにすぎねェ」

「飾りに使われるなんて嫌でさァ」

「あぁ?何があるか分からねぇだろうが?奴等だって、どれくらいの規模で襲ってくるのか分からねぇ、保険をかけてテメェを店前に置いておく」

「…らーじゃ」


戦闘場所に配備されないのが沖田は不満だったのだろう
相手が相手だけに近藤の身が心配であったのもある
沖田は小さく舌打ちをした

逆に考えれば、店前の場所を任されたことになるのだが、それは何かがあればの話




そのやり取りを息を呑んで見ていた山崎に、松平は鋭い視線を向けた


「監察は手を出すな」

「えっ!?」

「テメェ等は奴等が現れたら、何があっても追跡しろ」

「何があっても…?」

「そうだ、仲間が倒れることがあっても、だ」

「!!」

「相手はあの鬼兵隊だ、一筋縄ではいかないだろ、無傷で捕まえられるなんて思ってねぇ…今まで黙りこくってた奴等が何故、今になって動くのか、もしかすると、まだ何か考えているのかもしれねー、後をつけて奴等の動向を探って欲しいんだよ」








「…そこまで考えているんですね」

「明日は俺達にとってもチャンスだ」
と小さく頷く松平

「っつーわけで、明日はそれぞれの持ち場よろしくな」


松平はゆっくりと立ち上がった


「あぁ…それと、ありがたい将軍様からの伝言だ」









「全員、死ぬなよ」



 
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