夢の日と、影の煩ひ

□優しい断罪(中)
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「銀ちゃん…大丈夫だよネ。どこぞで倒れてなんかいないよネ!?」
「あの人のことだから。また厄介事に巻き込まれていなきゃいいけど…」

すんすん。と鼻を動かし銀時の匂いを辿る定春の後ろで、新八と神楽の顔色が晴れることがなかった。
そんな二人の様子に、少年は黙って後をついていく。
不思議と、少年には気配というものがなかった。音も立てずに歩くということが癖になっているのか、はたまた少年の存在が此処に存在してはいけないもの。と世界が認識しているのか。





ぐぅ。

「ん?」

それは場違いな音であった。
腹がなったということは、直ぐに分かったのだが。
新八が神楽を見ると、神楽は大きく首を横に振る。今度は神楽から疑いの視線を受けて、新八も慌てて首を振った。では、

「……ちっちゃい銀ちゃん。お腹空いたアルか」

二人が揃って後ろを向いたので、少年は一瞬目を見開いて驚いたようだった。
その後で、急に恥ずかしくなったのか顔を背け「別に」と一言呟く。
それでも二発目の腹の虫が鳴った為に誤魔化しきれなくなり、とうとう少年は下を向いてしまった。
その仕草に、神楽はみるみる顔色を変化させて瞳を輝かさせる。そして、勢い良く少年を抱き締めた。

「っ!?…なんだお前!?……は、離せよ!!」
「この銀ちゃん、めっちゃ可愛いアル!!」
「はぁ!?何言って……痛い!痛い痛い!!ちょっと…タンマ!マジで死ぬ!!」

腕をパンパンと叩かれて、神楽はようやく力を弱めた。

「新八!金よこせヨ!」
「え」
「この銀ちゃんの為に、そこで食べ物買ってくるネ!」
「え…銀さんは!?」
「腹が減ってたら戦は出来ないアル!ほら、よこせヨ!!」
「え…えェェェェ!?」

この小娘。言ってることがめちゃくちゃたな。と思ったが、見ればちゃっかりと定春も歩みを止めているではないか。どうやら、おこぼれを期待しているらしい。

「仕方ないなぁ…早く戻ってきてよ?」と言うのと同時に、神楽は財布を奪い、少し先のコンビニに入っていった。恐ろしい早さである。敵に回したら、さぞ手強いだろう。
そんなことを考えつつ、その場に残された新八は未だに顔を赤らめたままの少年に高さを合わせ、腰をかがめた。

「ちょっと待っててね」
「…ん」
「ごめんね、気がつかなくて。お腹空いてたなら言えば良かったのに」
「こんなもん…我慢出来るし」
「我慢なんてしなくていいんだよ?………まったく。大人の銀さんも、こういったところを少し見習って欲しいな…いや、待てよ。結局この子も将来は、ああなるのか?」
「……へ?」
「あ、いやいや。こっちの話」

誤魔化すような薄っぺらい笑みを浮かべて、新八は少年の頭に手を置いた。
「僕達が、必ず君を元居た場所へ戻してあげるからね」と付け加えた新八の笑顔は暖かいものに変わっていて。
少年は何故か少し悲しそうな顔をして、つられて笑顔を作った。





「お待たせアル!肉まん買ってきたネ!」
「帰ってくるの早ァァァァ!!…って僕の分は!?」
「ないアル」
「は?」
「だってお金が足りなかったネ」 

少年に肉まんを渡して、自分も頬張る。
熱かったのか、神楽は口に目一杯空気を取り込んで、ほら。とレシートと小銭を手のひらに乗せ、財布にそれをしまった。

「美味しいね、ちっちゃい銀ちゃん!」
「…う、うん」

目を合わさずに頷く少年に、満足そうに笑う神楽。
定春にはしっかりとピザまんを調達しており、美味しそうに口を動かしていた。定春にとっては、もちろん一口で終わってしまう大きさなのだが。

定春に買ってきたのに、何故自分の分はないのか。そう嘆く新八に、「早く行くネ!銀ちゃんに何かあったらどうするアルか!!」と、肉まん片手に銀時捜索に俄然やる気が出た神楽が吠える。
そんなこと言って、銀さんは肉まんには勝てないんでしょ。と出る筈だった新八の言葉は、少年の「ありがとう」という言葉によって喉につまってしまった。
その少年の声は、とても嬉しそうだった。






 
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