空を仰ぐ

□第八章『思っているだけじゃ届きません』
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二人の男が対峙する中。
風が肌を撫でていけば木の葉は楽しそうにカラカラ回る。
太陽は見物を決め込んで、まだ昼前の優しい日射しを向ける。

かぶき町、歓楽街にて。
夜にはネオンの光りが輝く町並みも、今はまだどの店も開店前。
人通りも少ない。

一人。茶色味かかった髪、長身の男がケタケタ笑った。





「なかなかやるのう、おんし腕が全く衰えておらん。けんど久しぶりに会ったちゅうのに、こがな再会は悲しいぜよ、金時」
「知らねェよ、テメェが勝手に地球(ここ)に来たんだろーが」
「あはははは!!いやぁ、突然おりょうちゃんに会いとうなってのう…」

その男はふわふわの頭をポリポリとかいた。
その様子を「どうだかね」と、鋭い目で睨み付ける銀時。
男がのそっと歩き出せば、銀時も警戒をしながら足を踏み出す。二人は一定の距離を保ちつつ、円を描くように歩いた。
ピリピリとした緊張感がその場を包みこむ。

「辰馬。お前に用はねぇんだ、さっさとどけ」
「金時の大切なものを奪うつもりなら諦めろ、わしは金時を苦しめることは許さん」
「へぇ?やたら強気だけどさ。お前一人で俺に勝てると思ってんの?」
「やってみなきゃわからんだろう」
「やってみなくても、わかってんだろ?」
「……」

挑発の色を含んだ言葉に。坂本の顔から笑顔が消えた。
坂本だってそんなこと分かっている。
銀時が万事屋を始めてからというもの、白夜叉は表には出てきていないはず。つまり彼の中では、未だ攘夷戦争真っ直中なのだ。
片やこちらは、日々商談に追われ。仕事柄ブラスターを握ることもあるけれど、やはり戦争時よりぬるま湯に浸かっている生活に、腕は衰えているかもしれない。

「俺の邪魔をするなら、テメェもぶっ殺す」


紅い双眼が揺らいだのが合図だった。

銀時が地面を蹴ったのと、坂本がブラスターを放ったのはほぼ同時。
しかし、目の前にはすでに標的は居なくなっており、

「…上!?」

気配を感じ、頭上を見上げると銀時が木刀を降り下ろしてきた。
計算するように太陽を背に跳んだ銀時に、直視することが出来ず思わず目が眩む。
空中で動くことが出来ない銀時に数発、銃を発砲するが。太陽光が手元を狂わせた。

それでも腕に、脚に、掠めるように命中すれば血が飛び散る。しかし、銀時は表情一つ変えず斬りつけてきた。

坂本はとっさに銃をしまい、刀で銀時を受け止める。
体重を加えた真上からの攻撃は、体が痺れる程に力強いものだった。骨格が大きめの坂本も、骨が音を鳴らし悲鳴をあげているのが分かった。
奥歯を噛み締め、そのまま力任せに押し返すと、銀時は力を逃がすように後ろに退く。









「すまんのう。助かったが…ヅラ」
「ヅラじゃない…桂だ!!お前は刀くらい持っておらんのか!!」
「いやぁ…あまり刀は好きじゃないきに」

銀時の攻撃を受け止めた刀は桂のものだ。
間一髪のところで桂が刀を坂本に投げ、それを使い攻撃をかわしていたのだった。
あははは、と声低く笑う坂本は、いつもより何処か余裕がないように見える。


「またオメーか、桂」
「そんなに俺に会いたくないなら出てこなければよかろう」
「なんで俺がテメェに合わせなきゃならねーんだよ」
「それは、こちらの台詞だな」
「テメェ等とは古い誼(よしみ)だかんな、殺るつもりはなかったんだけど。気が変わった。俺の邪魔すんなら相手してやる」

狂気に満ちた顔で、銀時は悪戯に笑う。
自分が優位な立場にいること、久方ぶりに表に出られたことが重なり、その顔は楽しそうに思えた。








「坂本、来てくれたんだな」

桂の言葉に坂本は眉を下げ、少し困った様子で笑った。
それを見て、桂も自然と声が漏れる。
二人は久方ぶりの再会だ。積る話もあったがそんな暢気なことも言っていられない。
桂に刀を返すと「元気だったか」とだけ会話を交わした。

周囲にはいつの間にやら、かぶき町の民が集まり見学を始めている。
自分達が居る限り、白夜叉が他の人間に手を出すことはないと思うが、出来ることならば無駄な被害を出さない為にも、誰も居ない場所で戦り合いたいものだ。

「さっさと終わらせるぞ。覚悟しろよ、白夜叉」
「金時は大事な仲間だからのう。返してもらわんと困る」

「はっ!……何人こようが俺は止められねェさ。…こいよ」

銀時は指をクイッと曲げて、二人を挑発をする。
どうにも自分が勝つということに絶対の自信があるらしい。

観衆は呑気に「兄ちゃんやっちまいな!」やら「もっとやれ!」など声を上げ勝手に盛り上がっている。
事情を知らない者から見れば、只の男同士の喧嘩。
大方、女絡みか?なんて考えており、真剣や銃を持った男二人を相手に、木刀一つで余裕を見せている男がどんな戦いをするか。そこに期待が集まっているようで。
銀時が持っているのが真剣ならば話は別だが、木刀というところで端から見れば本気の殺し合いには思えないのである。








 
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