空を仰ぐ

□第四章『世間話もほどほどに』
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土方と沖田は、春雨が開発した新薬のこと。
その薬で彼等が何かを企んでいるということ。
銀時も被害者の一人であるということを説明した。

そして、調べていた薬の作用が明らかになったことも。






「つまり、その新薬は一時的に筋力を強めるということか」
「そうなるな」
「なるほど…」

通りで『あの当時』より力が強いわけだ。
と桂は納得した。

「だが、まだわからねェことが一つある。なんでアイツは頭までイカれちまったんだ?」
「おそらく…それは」

桂は少し遠くを見ながら、話始める。

「アレが、銀時じゃないからだ」
「は?」
「アイツは白夜叉。もう一人の銀時なんだよ」
「もう一人?それは…二重人格ってことか?」
「…まぁ、そうなるな」
「はぁ?嘘をつくならもっとマシな嘘をつけよ」
「…嘘などではない!俺も始めは信じられなかったが」










――銀さんが二重人格?そんな素振りは今まで一切見せなかったけど

新八は、二人のそのやり取りにようやく顔を上げた。
何年も一緒に万事屋をやってきたが、自分は銀時のあんな姿を見たのは始めてである。
それは、別の人格だったからだ。なんて言われれば、疑問は解消されるが。
それ以前に、銀時が二重人格ということに疑問が生まれる。


「…俺達は銀時のもう一つの人格を、白夜叉と呼んでいる」
「『達』ってことは、他にも知っている奴がいるのか?」

土方は高鳴る鼓動を静める様に、タバコに火をつけた。

「そうだ。俺の他にも攘夷戦争に参加し、共に戦っていた者は白夜叉を知っている」
「なるほどな…」
「俺達があいつの存在に気付いたのは、攘夷戦争の時だ。後から分かったことだが…実はもっと昔から、銀時の中に奴は存在していたらしい」

桂は土方が吐いた白煙を疎ましい、とでも言うように眉を寄せて話を続ける。

「二重人格…つまり白夜叉ってのは銀時が作り出したものだ。人間は、精神が破壊されるほどの出来事に遭遇した時に、 脳が身を守るために、勝手に別の人格を作ることがある。そうだな…わかりやすく言うと、すごく辛い、痛い目に合わされ続けてる、とする。
すると脳が現実逃避をしないと、精神が破壊されてしまうと判断し『今、つらい目に合っているのは、自分じゃないんだ、これは別の人に起こっていることなんだ』と、考え始める。それが別の人格を作り出す原因だ」
「…お前、学者みたいだな」
「学者じゃない…!!桂だ!!」

それは簡単な説明だったが、二重人格のメカニズムは理解することが出来た。
だが、気になるのは、

「あの…桂さん。銀さんって昔、そんなに辛い目に合っていたんですか…?」

新八が少し悲そうな目を作り、桂を見る。

「そうだな。俺が銀時に出会った頃は酷かった、鬼の子と呼ばれていたからな」
「鬼…」
「あいつの髪の色、目の色は珍しいだろう?今でこそ町中を普通に歩けるようになったものの、あの当時は天人も居なかったしな。気味悪がられたんだろう」
「銀さん…そんな思い、してたんですね…」
「俺は高杉と同じ村塾に通っていてな、そこで出会ったのが銀時だった。銀時は村人とあまり係わらないようにしていたが…ある時、銀時が外に出てしまってな、村人に散々やられたことがあった」

「…ほぅ」

土方は『同じ村塾』という言葉に反応した。
三人の繋がりが明らかになったのだ。これは大きな情報だ。







 
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