不始末の激情

□第六章
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日が落ちれば、幾分暑さは和らいで動きやすくなるというもの。
神楽の心配を余所に、銀時と新八はスクーターで夜風を満喫していた。

そんな中、後部座席に乗っていた新八は、銀時の背中を見つめては言葉を探していた。
万事屋を出てからというもの、無言の二人。レストランでの銀時の様子も重なって、新八はなんだか気まずさを感じていたのだ。

「あの…一つ気になることがあるんですけど」
「あ?」

銀時の心情を探るように言葉を集めて背中にぶつければ、思ったより明るい声が返ってきて新八はホッとした。
丁度信号に捕まって、ハンドルから手を離した銀時が僅かに振り返ったので、新八はエンジン音に負けないように、声を張り上げ疑問を口にする。

「なんで紅桜の被害者は、体の一部分が無くなっているんですかね?前回の紅桜と何か違うんでしょうか」
「んなこと、知らねーよ。あれじゃね?よっぽと腹が減ってたんじゃねェの?」
「…そんなことありますか」

新八は歩行者用の信号が点滅するのを、何処か別の世界での出来事のようにボーッとみつめて。
色々な可能性を模索してみるも、自分自身が満足出来る答えには辿り着くことが出来なかった。

「そうしなければならない理由でもあったんでしょうか」
「さぁな」
「銀さん……どうするつもりなんですか」
「何が」
「対紅桜用に何か策でもあるんですか」
「……」

信号が変わって、スクーターは走り出す。
先程から、やたらパトカーと擦れ違うことに疑問を抱きつつ、いつもと違って家までの帰り道がやたら短く感じた新八は、銀時の着物をギュッと握りしめた。
家は、もうすぐそこだ。

「策…かぁ。とりあえず、あのウネウネを何とかしなきゃならねーよなァ」
「ウネウネって……コードみたいな触手みたいな、アレですか」
「そうそう。アレに捕まったら手も足も出せねェし」
「じゃあ、一度専門家の源外さんに相談してみます?」
「あのじーさんに言っても分からねーだろ」
「でもあの人。江戸一番のカラクリ技師じゃないですか。何かいい案があるかもしれないですよ」

うーん、と新八が唸り声を上げている中、銀時は昔鉄子から言われた言葉を思い出していた。

『木刀では紅桜と戦えない』と。そう言われ渡された真剣は、鉄子が自ら打った己の想いが目一杯込められたモノ。
紅桜を殲滅することが出来た、護る剣だった。

木刀の扱いには慣れている銀時だが、船艦さえも破壊してしまうほどの威力の紅桜に木刀相手は分が悪すぎる。
現に過去には木刀を折られてしまっているのだから、今回も刀を用意する必要があるだろう。

「…どうすっかな」
「明日、からくり堂に行きますか?」
「違ぇよ。そうじゃなくて……あの紅桜相手に、木刀は厳しいだろうって思ってな」
「…あぁ。それなら鉄子さんに刀を打ってもらったらいいじゃないですか」
「鉄子、ねぇ……あ。ほら、着いたぞ」
















道場に着くと、お妙が玄関先で出迎えてくれた。
お妙はヘルメットを取りスクーターを降りる新八を、腕を組んで仁王立ちで睨み付ける。

「銀さん、新ちゃん。今、何時だと思っているんですか」
「すみません…姉上。ちょっと用事があったもので…」

とりあえず、薙刀を持っていないことを確認し、命が奪われることだけはないと安堵したのも束の間。
お妙は笑顔を作り出すも、額には青筋が走っているのを見て銀時は早くも帰ろうとエンジンを掛けていた。

「銀さん。貴方に新ちゃんを預けている以上、貴方が保護者代わりなんですよ?しっかりしてもらわないと困ります。ただでさえ、無銭働きを強いられているっていうのに、こんなに夜遅くまで仕事ですか」
「仕事じゃねーけど…」
「え?」
「っつーかよ。コイツだってもう小さいガキじゃねぇんだぞ、あんなとこやそんなとこの毛だって生えてんだ。このくらいの時間でそんな怒るんじゃねェよ」

コイツに彼女が出来たらどうすんの、とか過保護過ぎるんだよオメーは、とか。
無銭働きという単語には一切触れずに、次々に言葉を並べていく銀時に、お妙の表情は徐々に呆れ顔に変わっていく。

「……心配したんですよ?今、ここらで妙な事件が起こっているじゃないですか。それに停電もしていたんだし……」
「だから、こうして送ってやったんだろうが」

お妙は組んでいた腕をほどき、頬に手を添えて首を傾げた。

「もう……ようやく電気が使えるようになったから良かったものの、心配したんですからね」
「あ、じゃあ俺はこれで」

本格的な説教が始まる前にと、銀時は逃げるように立ち去ろうとする。

「えっ!?あっ…ちょっと銀さん!!」

新八の手から、ひょいとヘルメットを奪い取って
銀時は振り返ることはせずに、軽く手を挙げて返事をしただけで夜の町に消えていった。




お妙はその様子を見届けて。やっと鬱陶しい男が居なくなったと、途端に笑顔になる。

「新ちゃん。晩御飯は食べたの?」
「は、はい…桂さんに御馳走になりました」
「そう。遅い時間まで、お仕事大変だったでしょう。お風呂沸かしてあるから、支度なさい」
「あ、はい…」

新八は仕事の内容について聞いてこない姉に、少し感謝をしつつ部屋に上がった。
普段からこうして詮索などしないお妙だったが、余計な心配をさせたくなかった為。
そして。
これからの数日間は今日のように帰りが遅くなることがあるかもしれないと、辻斬りの事件について仕事があった。とだけ伝えておくことにした。








 
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