不始末の激情

□第一章
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「トシ、遅かったな!」

屯所に着くなり、目に飛び込んで来たのは腰に帯刀をし、出動の準備をする仲間の姿であった。

パトカーから荷物を引っ張りだし縁側にそれを置けば、目を輝かせた男達が群がってくる。

「なんだよ、何かあったのか」
「あぁ、通報があってな。変死体が川辺で上がったらしい」
「変死体?……もしかして、例のアレか」
「まだ分からんが、その可能性が高い」

そうか。と難しい顔をする土方の背後から、沖田はひょっこりと顔を出す。
近藤の前では、しっかりとアイマスクはしまい、如何にも買い出しに俺も行ってきましたと言わんばかりに。

「近藤さん、ありったけの飲み物買ってきやしたぜ」
「おう、暑い中ありがとな」
「これくらい何ともないでさァ」

あれからたっぷりと寝ることが出来たのか、そう言って爽やかな笑顔を見せる沖田の頭を、土方は思い切り殴った。

「テメェは何もしてないだろうが!!」
「いってぇ!何すんだよ!!」
「一発くらい殴らせろ、気が収まらねェ」

ニヤリと笑った土方に、沖田は悪意だらけの舌打ちをすると、バズーカを取り出して土方の頭に標準を合わせ構えた。

「一発くらい殺らせろ、俺の気が収まらねェ」
「ふざけんな!テメェはそれしか頭にねーのか!!」

争い始めた二人に、まぁまぁ。と近藤が仲裁に入る。
只でさえ暑いというのに、目の前で怒鳴られ騒がれては、ますます暑苦しい。

苛つくことも、買い出しに行くことになったのも、それもこれも全ては停電のせいなのだが。

「くそっ…なんでこんな暑い日に停電なんかしやがるんだ!」
「上から連絡があったが、どうやら原因が分かってないらしいな。……まぁ、明日には普段通り過ごせるだろう。そう苛つくな」
「あぁもう、何だってんだ」

土方は苛立ちを鎮めようとお茶を手に取り、飲み出す。
そしてゴクゴクと喉を鳴らすと、あっという間に飲み干した。


停電中の屯所では、もちろん冷蔵庫も使い物にならない。
故に冷たいうちにと、近藤は皆に飲み物を渡していく。
隊士等はどれも嬉し顔で、すぐに飲み出す者、首筋に冷たい容器を押し当てる者。それぞれが仕事前の一時の安らぎを満喫していた。

その様子を嬉しそうに眺めていた近藤は、残った最後の一本を手に取り、自身も渇きを潤していく。
ここまで暑いと、身体はいくらでも水分を欲しがっており、みるみると身体に吸収されていくのが感覚として分かった。
身体が生き返るとは、このことだろう。

「飲み終わったら仕事だ!さぁ、気合い入れていくぞ!」

ビールの宣伝のように、ぷはぁと息を吐いた近藤は、元気になった男達に檄を飛ばす。

こうして松平のお陰で、暑さの中、無事に士気を高めることができた真選組は、通報を受けた事件現場へと向かっていったのであった。










 
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