壊れた世界、希望の国

□第六章
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作戦決行日、当日

太陽が西へ傾きかけ
お腹もいっぱい、良い天気
丁度、人間がまどろむ時刻

本来ならばキャバクラを訪れるのだから、夜になるはずの計画も
将軍を連れての遊興だ
今回は特別に、昼間から店で飲むことになっていた




人気のない町外れ
空き地という程には広く、草原というには狭い
雑草だらけのその場所を、囲うように生える木々に隠れ
真選組の面々は身を潜めていた

風が優しく大地を撫でていけば
それが嬉しいとでも言うように、木々や草花はカサカサと音を立て揺れる

真選組がこの場所を訪れてから一刻余り
彼等の緊張感を纏った空気に反するように、そこにはのどかな風景が広がっていた











「上手くいきますかね…?」

「……思い通りにいかないかもしれんな、だが奴等は必ず捕らえなければならん」

足首が隠れる程に伸びきっている草を、邪魔くさそうに足ではらいながら
新八は隣で、姿勢を低くしている近藤に小声で話し掛ける

「それにしても…こうして今までも松平長官が、上様を町に連れ出していたとは知りませんでした」

「とっつぁんも、城に引きこもりの上様に外の空気を吸わせてやりたいのだろう…お父上がお亡くなりになって以来、とっつぁんは上様の親父代わりになっていたと聞いている」

「なるほど…」

「まったく、平和な世の中だよ」

「そうですね」

新八はクスりと笑う



そんな二人の会話を遮るように、足音が二つ近付いてくる

「その江戸の平和を脅かす存在は、何としても…お縄にかけなければならない」

近藤はその足音に直ぐ様反応し、顔を上げた

「…アイツ等を、な」

「…??アイツ等?」

新八は近藤の視線の先を見る
すると
咲いている花をグシャリと潰し、特にそれを気にすることもせず歩く二人の男が目に映った

銀時と万斉である


「近藤さん、あの人達は…もしかして」

「あぁ…恐らくあれが白夜叉だろう、隣にいるのは河上万斉か」

実際に白夜叉の姿は見たことがなかったが
噂通りの綺麗な白髪に、この男があの白夜叉であろうと推測出来た
それに、一緒に居るのが鬼兵隊で事実上No.2の万斉であることが決定打である

「あれが…白夜叉」

心がざわつく
目が合っただけで殺されてしまうような、そんな感覚









『白夜叉にとっては、お前等が悪い奴――』
その時、新八の脳裏にはいたいけに笑う少女の姿があった
名前を聞くことすら出来なかった少女は、何故自分達を助けたのか?
あれから、少女のことが気になって仕方がない






「銀ちゃん…か」

「どうした?新八くん」

「いえっ…何でもないです」

近藤はその答えに不思議そうな顔をした後、隊士に命令を飛ばした

「予定が狂った、とっつぁんとの合流は中止だ、こっちに来るんじゃないと伝えてくれ」

「…はい!!……あ…あれ?」

「どうした」

「だ、駄目です…無線が何者かに妨害されています!!」

「…!!」

「携帯電話も繋がりません!!」

「…奴等にこっちの動きは全てお見通しってわけか」

雑音ばかりが虚しく無線機から聞こえる
手にした携帯も電波障害で繋がらず、通信手段は断たれてしまっていた












「新八くん」

「…は、はい!?」

「とっつぁんの言ったこと、忘れちゃいないな?」

「……」

「君は君の任務を遂行してくれ、奇襲を仕掛けようとしていたが…少し予定が狂った、まぁ…やることは変わらないしな」

「…近藤さん」

「さぁ、君は奴等に見つからないうちに隠れるんだ」

「…でも」

「監察の仕事を忘れるな、これも大事な任務なんだぞ?」

「………はい」

鬼兵隊の動向を探ること
それが新八達、監察に与えられた任務である
つまり、ここで争いに参加するわけにはいかないのだ
先のことを考え、身をひかねばならない
新八は後ろ髪を引かれる形で、茂みの奥へと身を隠した





「下っ端共が罠にかかるかと思えば、白夜叉様直々のお出ましか」

「…局長」

弱々しい声をあげる隊士に、近藤は力強く頷いてみせる

「俺が先陣をきる、合図したら一斉に…かかるぞ」

「はい」

しかしその言葉にも、隊士の不安げな表情が変わることはなかった










































「白夜叉」

「何?」

「その殺気、どうにかならんのでござるか、奴等が構えているではないか」

「ん?あぁ…悪りぃ」

万斉は隣から溢れ出る殺気を、痛いほどに感じていた
物陰に身を潜める真選組とて、それは同じこと
今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた者が、この殺気にあてられて気付かない筈がないのだ

これは
殺気を隠すつもりがなく、わざと放っているものなのか
憎むべき相手を前に、自分で隠せない程、自然と溢れ出てしまったものなのか

「…遊びじゃないんだぞ」

「んなこと、分かってらァ」

銀時の答えに
ならば、この殺気は後者であろうと万斉は考えた
と、同時に恐ろしい男だと思う

「それじゃあ…行くか」

「はいよ」

銀時は、獲物を前にした獣の様に赤い目を光らせると、腰に差した刀に手を添えた






 
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