壊れた世界、希望の国

□第一章(H27.8.15修正)
1ページ/4ページ




休日のこの日。
通りは賑わいをみせ、昼時ということもありどの店も混み合っていた。
町の外れの小さな定食屋、その定食屋とて例外ではなく。店内では店員が忙しそうに右往左往し、次々と料理が運ばれ、威勢のよい声が飛んでいた。

そんな活気のある店内で、強面の男が三人と少女が一人のテーブルがひとつ。
彼等は親子ではないだろうし、そもそも家族でもなさそうだ。
どこか異常を感じるその光景も、町柄なだろうか周囲は特に気にする様子はなく、彼等を日常に溶け込ませているように誰も見向きをしなかった。

少女の前には食べきれるのか、と疑う程の料理と空になった皿の山がある。
目に付くものを手当たり次第に口へと運び、次々と空にしていく姿は、彼女が戦いの最中でもいるかのようだった。
「もうお前達の言いなりになんてならないネ!」
手を休めることなく少女が吠える。空の皿がまたひとつ増えた。
「早速言いなりになってんじゃねーか、クソガキ!、」
「クソガキじゃないネ!!神楽アル!!」
小柄な少女の声は、店内の音に書き消されることなく目の前に座っている強面の男達に放たれる。
頭には特徴的な髪飾りを二つ付け、赤のチャイナ服を身に纏い、透き通る様な白い肌と、何処に食べ物が消えていくのか、不思議な程に華奢な体尽きをしている神楽。
彼女は餓鬼と言われる程に、幼い容姿をしているのだ。
「次の仕事の話をするために、此処に連れてきてやったんだぞ。なのにテメェ…この仕事を降りるっていうのか!?」
「もうお前達には愛想つきたアル、つまらない仕事ばかり押し付けて、私はもっと楽しい事したいヨ!」
神楽の前には三人の男が居た。
どれもパンチパーマで派手な着物を着た、言わばヤクザのような連中だ。
彼等が神楽を睨み付ければ、神楽も臆する事無く睨みを返す。
「せっかくテメェのような貰い手のねぇガキを雇ってやってんだ。こっちは礼の一つでも言って欲しいもんだな!そもそも楽しい事ってなんなんだよ。俺達の仕事がつまらないたぁ、どういう事だ!!」
「金を奪ったり、人を脅したり、そんなものよりも。私は友達と遊んだり、ご飯食べたり、普通の生活がしたいアル」
口一杯に詰め込んだ食物を飲み込み神楽は言った。
大の大人が凄みを効かせたところで、神楽には通用しないようだ。
その事に腹が立ったのか、神楽の言葉に一人の男が激しくテーブルに手を打ちつけ立ち上がる。
「だからテメェはガキだと言ってるんだ!調子にのるんじゃねぇぞ!!」
「お前達とはココでお別れヨ!」
「テメェはこれからも黙って仕事してりゃいいんだよ!今までの恩を忘れたとは言わせねーぞ!!」
男がそう言って胸元から取り出したのは黒く光る無機物、拳銃であった。
男は銃口を神楽に向け、ゆったりとした動作で引き金に指を掛ける。
「これでも俺達の言うことが聞けねぇか?今ならまだ間に合うぞ」
「嫌アル!!」
それでも神楽は逃げる事はせずに、むしろ身体を前のめりにして吠えていた。
ここでようやく周囲の客が異変に気付き始めたが、時すでに遅し。今にも引き金は引かれようとしている。
「テメェみたいな戦闘種族はなァ!!俺達の様な賢い地球人に使われるのが一番幸せなんだよ!!」
「…なっ」
「夜兎のテメェが普通の生活を送れると思うなよ!!分かったら、さっさとこの店の金を奪って来い!!」





ぱん、と乾いた音が店内に響いた。
騒音を突き抜ける一つの音。それは耳を劈く銃声。
これには騒がしかった店内も、流石に静まり返る。

何が起こったのか分からないのか客等は数秒の間、動きを止めていた。それにより辺りは時間が止まったようになり、静かな店内で動いていたのは銃口から立ち上る硝煙だけになる。
「早くしろ!!俺が夜兎の力の使い方を教えてやるって言ってんだ!!」
男が叫び、高らかに嗤う。

すると、あちらこちらから叫び声がし狭い店内にこれでもかと押し込められていた人間が一斉に出口へ向かっていった。
止まっていた時間が動き出し、騒然となる店内。
椅子は蹴飛ばされ、料理はひっくり返り、店員さえも我先にと外へ飛び出していく。
先程までの混雑が嘘のように、店内からはあっという間に人が居なくなった。

「さぁ邪魔者は消えた。金目のものをさっさと盗って引くぞ!!」
「お前……!」
「早くしねぇと警察が来ちまうだろうが!!」
テーブルに置かれていた料理を投げ飛ばし、男が叫ぶ。
散らかった店内に残されたのは、肩から血を流す神楽とパンチパーマの男達。
そして、不機嫌な顔で頬杖をついている、白髪の男だけになった。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ