突発的血液不足

□B『悪化』
1ページ/3ページ






一心不乱に配線を繋ぎ、オイルを差す。
油だらけの手を休めた時だった。
一息つこうと腰を上げた源外の視界の隅に人影が映り込む。

「今日も精が出るねェ」

人影は何の感情もなく義務的にそう言った。それが挨拶であるかのようだ。

「てめーは、今日も暇人か」
「そんなとこ」

源外も決まり文句を返す。いつものやり取りだった。

白髪の男は源外の許可もなく、作業場に入り込んでくる。薄暗い室内で足元も悪い為、着物の裾を仕事道具に引っ掛けて「いてっ」と声を出していた。それでも源外は、男に視線を合わせずに淡々と言う。

「銀の字、何の用だ。てめーと厄介事はセットだからな。その阿呆ツラを見るとぞっとするよ」
「そんな事言わないでくれよ。ちょっと頼みがあってな」
「金はあんのか」
「ねーな」

いつの間にか源外の後ろに立っていた銀時と背中越しに会話をした。
そして、せっかく一息つこうと思っていたというのに、それは出来ないだろうと嘆きの息を吐く。

「ふん……よくもまぁ。そんな偉そうに突っ立ってられんな」

上がりな。と銀時を奥へ案内する。
家の主以外には、居住地と作業場の区別が付かない程のモノが溢れた場所に二人は向かい合って座り、そこでようやく目線を交わした。
テーブルには源外の飲みかけの茶が置かれている。





「早速だけどよ、じーさん。血は作れるか」
「はぁ?」
「そのまんまだよ。人工的に血液が作れるか聞いてるんだ」

源外は銀時の言葉を理解することに少し時間が掛かったようだ。
あっはっは、と声を出して笑い出したのは、暫し二人が目で語り合ってからである。

「そりゃ無理だろう。俺の専門はカラクリだ。血が欲しいなら病院でも行って頼んできな」
「あ、なるほど」

感心した様子で、銀時が手を叩く。

「銀の字。世の中に何で献血があるのか分かるか?」
「んー…血が足りねーから?」
「そうだ。世の中、常に血が足りてねェって事だ。足りてねーなら作ればいいだろう?だが、どんなに医学が発達しても血液は作る事が出来ねェんだよ。だから献血なんて制度があんだ」
「うわ、絶望的」

交渉は決裂。銀時は途端に頭を垂れた。
何故こんな話を持ち掛けてきたのか分からない源外には、銀時の反応の意味は分かっていないだろう。

「血なんか欲しがってどうしたんだ?貧血にでもなっちまったのか。それとも、これから怪我でもする予定でもあるってか!」

歯を見せて笑う源外とは対称的に、銀時は顔に暗い影を落としていた。
ぼそりと「いや……俺の飯」と呟いた言葉に、源外の笑みが固まる。

「は?」
「俺さ。吸血鬼になっちゃったみたいで」

そう言って、銀時は人間離れした歯を「い」と見せつけた。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ