突発的血液不足

□番外『喪失』
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光を放つ金色の瞳は、暗闇では宙に浮いて見えた。男はソレを三日月のように歪めて、笑う。
一方で男と対峙する銀時は、額に汗を滲ませ奥歯を噛み締めていた。
弱々しい街灯の光が、二人を照らし薄い影を作る。今宵は雲が多く、月明かりはあてにならない。
耳が痛むような静寂。この世界に生者は二人だけに思われた。

男は黒いマントを纏い、頭にもすっぽりとフードを被っている。全身で闇に紛れようとしてるのに、やはり双眼だけが不気味な存在感を出していた。





「今まで何人の血を吸った?」

風が起こった。
ふわりと音もなく足を運ぶ男。気付けば銀時の耳元で声がした。

「その様子では、余程我慢出来なかったようだな」
「!?」

銀時は素早く木刀を抜き、薙払う。だが手応えはなく、空気を切る音だけが虚しく響いた。
男は軽々と銀時の攻撃を避け、舐めるように銀時の身体に視線を向けていた。笑った口元から、銀時と同じ様な牙が覗く。

「見たところ相当な量を飲んでいるな」
「……分かるのか」
「お前の身体は血を飲めば飲むほど侵蝕が進んでいくのだ。あと少しで完全に俺達の仲間入り…といったところだな」
「……なんだと?」
「そのままの意味だ。人間一人、吸血したってそこまで金狼化しない。お前、ここ数日で何人もの血を吸っただろう」
「……」

押し黙る銀時を見て、男は更に顔を歪ませた。
そして「悪いことじゃねーさ。本能に忠実なのは」と、嘲笑う。

銀時自身も身体の変化は進んでいると実感はあったが、そういう仕組みであったのなら、かなり悔やまれた。ここ数日、銀時は欲に負け、身体の乾きを血で満たしてしまっていたからだ。
この行為が、自ら侵蝕を進行させてしまっていたとは。
もう一滴も血を飲むことは許されない。

「天人と化すのも、時間の問題だろう」
「上等だ。てめーをぶっ倒すのは、数分で終わる」
「俺を殺したところで、じきにお前は人間ではなくなるんだぞ」
「…はっ。俺は元々化け物扱いされてんだ。んなこと大した事じゃねェな」
「分かっていないな。初めから天人として生を受けた俺達と違って、人間から天人へ変化するというのがどんなことを意味するのか」

銀時は木刀を構え、地を蹴り男と距離を詰めた。
男の蹴りを避けるように上へと飛ぶと、重力に任せて木刀を振り下ろす。
闇に溶けるような音のない動きで、男が攻撃をかわした。

銀時は足が地に付くと同時に、横から下からと木刀を振り回し斬りかかる。
だが男に傷を付けることが出来ても、どれも致命傷には至らない。僅かに重い身体が、銀時の戦場の記憶を鈍らせていた。

焦燥感を殺すように咆哮し、大きく振り払った木刀が男の腕を捉えた。
しかし、思ったよりも浅い。
そこから僅かに宙を舞った血液が落ちるより先に、今度は男が銀時の懐に踏み込んできた。





「これを飲め」

男はそう言って、今し方つけられた傷口を銀時の口元に押し付けた。
鉄臭い筈の血液が、やはり今は甘く感じ、銀時の鼻孔を刺激する。押し付けられたら肌が銀時の牙に食い込み、更に流血を誘った。

「俺の血を分けてやる。人間なんざ、さっさと辞めてしまえ」

口内に広がる誘惑。
強制的に飲まされた血液は、銀時の喉を刺激し、全身を駆け巡り、脳を支配した。
沸騰するような熱さが全身を襲い。皮膚が爛れるような錯覚に陥る。あまりの激痛に銀時は唸り、身を屈め、呼吸を乱した。

「お前なら、歓迎してやる」

銀時の瞳がみるみる金色へと変わっていく。
その様を、男は満足そうに眺めていた。





*******





「銀ちゃん……何処にいるアルか」
「夜に人探しは大変だ……」

神楽と新八が銀時を探し始めて数時間。
夜も大分更けてきて、まさに草木も眠っているような時刻。
大通りを少し入った住宅街を歩く二人。

「うー…めっさ眠いアル」
「いつもなら寝てる時間だからね」
「毎日こんなに夜中に動き回ってたら、こっちまで夜行性になっちゃうネ」
「仕方ないよ。昔から言うだろ?吸血鬼っていうのは夜間に活動するって」
「そうだけど……」

夜は暗く視界が狭ばるので、人探しには向いていないと思うが、銀時の活動出来る時間が日が落ちてからということを考えると、やはり自分達も同じ夜に動くべきと思ったのだ。

「銀さんを見つけるまでの辛抱さ。どうせ僕達も、昼間は仕事もなく万事屋にこもっているんだから。昼寝すればいいじゃない」

新八は歩みを進める。

「やることがないってのも、不幸中の幸いと言うか……いや、でもやっぱり仕事がないのは困るなぁ。今月だってかなり生活が苦しいんだし」

うんうん。と一人で頷き、溜め息と共に神楽に同意を求めた。

「ねぇ、神楽ちゃん」





だが返事はなかった。
見ると、つい先程まで隣を歩いていた神楽が居なくなっている。

「え…神楽ちゃん?」

新八が後ろを振り返ると、神楽は少し離れた場所に立っていた。その背後には一人の人間。
神楽は、何者かに後ろから押さえつけられていたのだ。

「!?……だ、誰だ!!お前!!」

口元が見えるだけの深く被られたフード。
夜兎の神楽を素手で押さえているのだから、かなりの力の持ち主だろう。
ただならぬ気配を感じさせる。

「……んぅー!!」

羽交い締め状態の上、口には手を押し付けられていた神楽は、呼吸もままならないようであり苦しそうだった。
それでも抵抗を見せ必死に暴れていたが、男に何かを囁かれた後でピタリと動かなくなる。
その様子を不審に思った新八は、一歩神楽に近付いた。しかし、男が更に神楽を締め付けたので、それ以上は動くことが出来なかった。神楽があまりの苦しさに声を漏らす。

「神楽ちゃん…!!」

その時、新八は見逃さなかった。
神楽の顔に絶望の色が走ったのを。
青い二つの瞳が新八に何かを伝えようと揺れている。だが、やはり声を出すことは出来ないようだ。

「んぅ!!んぅー!!」

神楽は必死に言葉を話そうともがいている。そして困惑していた。
頭の中は、何故、どうして。と言う疑問で一杯である。
チラリと覗いたフードの中。
そこには、二人が探していた白髪があったのだ。










☆うーん……
もっと丁寧に書きたかった。
このあと神楽を襲っちまえばいいと思うよ、銀さん!!(笑)
あ、念の為書いておくと、最後に出てきたフードの人は銀時です。
人間辞めました状態の彼です(笑)

一応更新用に、色々設定を作ったんですよー。この天人の事とか。
(オリキャラは嫌いですが、敵が出てこなきゃ仕方ないので)
ここに行くまでに何人の血を吸ったのか。そして、その度にR-15指定になるのか(笑)それは謎。

こういう厨二展開大好き。




  

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