空を仰ぐ

□第七章『護りの刀と攻めの刀』
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「何から壊してやろうか?」

そこに居るのは二人の男。
二人はとても似た容姿をしており、双子の兄弟のようである。
だが、表情は対照的で。纏う空気も全く異なるものであった。

一人は、微笑みを浮かべており。僅かに開いた口から笑い声が漏れている。
もう一人の男は俯いていて、表情を見ることが出来ない。

「なぁ…お前は今、何を考えてるんだ?銀時」

銀時に触れようと手を伸ばすが、無言のままにその手を叩かれた。
男は少し驚いた様子で、自嘲的に笑う。

「そんなに俺が憎いか…?」









暗い夜が明けた。
日が昇り、辺りは明るくなる。
昨日と変わらず、今日も雲一つない青空だった。

薬の効果が切れるまで。
残り、二日間。

















ドカドカとわざとらしく、音を立てながら廊下を歩く男。
その男の額には青筋、眉間には深いしわが三つほど。
これは明らかに機嫌が良いと言える状態ではない。

「山崎は、まだか!!」

周りにいる隊士が自然に道をあける。
こうしたことは日常茶飯時だが、今日は一層機嫌が悪く見えた。

「…土方さん、まだ一日しか経ってないでさァ」
「時間がねぇって言ったろーが!!今日にでも、白夜叉が動くかもしれねぇんだぞ!!」
「ニコチンでも切れてるんじゃないんですかィ。嫌だ嫌だ。これだから中毒者は」

隣を歩く沖田が、胸元から煙草を取り出し土方に渡す。

「…おっ。気が利くじゃねーか。悪ぃな」

土方は箱から煙草を一本引き抜くと口に咥え、愛用のマヨネーズ型ライターで火をつけた。


「って何だよ、これ。……ココアシガレットォォォ!?」
「別に俺ァ、煙草どーぞ。なんて言ってやせんぜ」
「テメェ、なんでこんなもん持ってんだよ!!」

土方は咥えていたココアシガレットをバリバリ噛み砕いて、箱を床に投げ付ける。
更に青筋を増やして沖田を睨み付ける土方だったが、「あーぁ。30円もしたのに」なんて沖田は呑気に箱を拾い上げていた。









「副長ォォォオ!!」

二人の後ろから、その場に居る誰よりも明るい表情をした山崎が、片手を挙げながら走ってくる。
どうやら、与えられた仕事を無事に終わらせたらしい。

「山崎、戻りました!」

二人の後ろで誇らしげに敬礼をする山崎。






「総悟。そういえば、チャイナ娘は平気なのか?」
「あぁ。大丈夫なんじゃないですかィ?あれから、連絡が無いってことは」
「…良かった。しかし、あれだけの深傷を負わせちまうとは。万事屋の野郎…やっぱり、どうにかなっちまったようだな」
「まぁ、旦那の体からヤクが抜けるのは三日間じゃないですかィ。そしたら、一件落着。チャイナの野郎も心配いらないですぜ。きっと今頃、酢昆布でも食ってまさァ」


「あの、山崎戻りました…けど」

間違いない。
完全に、存在をないものとして扱われている。
山崎は二人の後をつけながら、大きく咳払いをしてみたが。二人が振り返ることはなくて。
ここまで来たらわざとなんじゃないかと思えてくる。
どうしたら、自分の存在を気付いてもらえるだろうか?
少し考えた結果、山崎は怒鳴られる覚悟で

「…マヨネーズって、くそ不味いですよね」

なんて目の前のマヨラーに対し言ってみた。
これは効果がある。絶対に。



「んだとコラァァァア!!!もういっぺん言ってみろ!!」
「……山崎、戻りました」
「…あ、山崎居たのか」
「はい…」

山崎は肩をおとし、やっと振り返った土方に苦笑いで答えた。
ぞんざいに扱われることにはもう慣れたけれど、やっぱり悲しいものは悲しい。

「お前が帰って来たってことは…何か分かったのか!?いや、待て…その前に今の言葉、もう一回言ってみろ!!!」
「なんでそこだけ、聞こえてるんだよ!!わざとだよ!!絶対、この人わざとだよ!」
「局中法度、第三十二条!マヨネーズをぞんざいに扱うことを禁じる!!…山崎、テメェ切腹しろ!!」
「イヤだァァァァ!!というか、俺をぞんざいに扱ってるくせにィィィ!?」

沖田はココアシガレットを食べながら、隣でギャーギャー騒ぐ二人に呆れた視線を送っていた。
二本目を口に咥え、それを弄ぶ様に動かしつつ、山崎に報告を迫る。

「で?結果は?何かつかめたのか」
「あ……はい!!バッチリですよ!!一日でこれだけ調べられたのが、自分でもビックリです」

と、ドヤ顔の山崎である。

「情報は確かなんだろうなァ?」
「はい、攘夷戦争に参加していた浪士達に話を聞きました。生き残っている人数が少ないので骨が折れましたよ。…あとは旦那の周辺ですね」
「…へぇー」

「おいおい。攘夷浪士って…俺達の立場わかってんのか、テメェ」

土方は山崎を睨み付け、ポケットから自前の煙草を取り出し、今度こそ火をつけた。

「だ…だって!!副長が急げって言うから!確実な方法を…と思って。それに今は攘夷活動をしていない人でしたから」
「ったく…しゃーねェな」

山崎は胸元から、綺麗な文字が並ぶメモを取り出す。

「えっと、まずはですね…旦那の中に別の人格があるってのは事実みたいですね」
「それで?」
「白夜叉と呼ばれる人格は、そりゃあもう強かったようで。相当、戦で活躍したみたいです。但し、暴走に近い戦い方に、味方まで犠牲になったこともあるとか」

山崎は二人の顔色を窺いながら続けた。

「攘夷戦争後期の当時、軍を引っ張っていたのは坂田銀時、桂小太郎、高杉晋助、坂本辰馬の四人で。旦那以外の三人が、白夜叉を押さえ込んでいたみたいです」
「…なるほどな」
「あ、あと坂本辰馬は戦が終わるより先に途中で離脱してますね。戦争中に宇宙へ…。桂、高杉は知っての通り今も攘夷活動を続けています」
「坂本辰馬…あの快援隊の坂本か、で…白夜叉を抑えるのは力ずくかよ…なんかねェのか?効果的なモンとか」
「ゲームじゃないんですから、アイテムとかあるわけないでしょ!!」
「んなこと、分かってるわ!!ただ、聞いてみただけだろ!!」

沖田は怒鳴り声をあげている土方のポケットに、そっとココアシガレットをしのばせた。

「で、総悟テメェは何やってんだ!!こんなもの、いらねェって言ってんだろが!!」

もはや、土方の叫びは煙草を吐き捨てるぐらいの勢いである。
え、いらないの?と衝撃を受けた顔を作る沖田に、土方の叫びに近い突っ込みは止まらない。
こうしていつも、話がそれていくのだ。
山崎は二人の間に入り込み、話を続けた。

「…つ、続けますね?戦時中の『旦那』の様子は、今とそんなに変わらないようで、戦争が終わってからは桂、高杉と別れて別行動……の後、一旦行方がわからなくなってます、万事屋を始めた理由は不明ですが、以降は白夜叉らしき人格は出てないと」
「…ほう、それで?」



「あ、これで終わりです」
「…は?」
「もうこれ以上は…少し時間をかけないと。と言うか充分でしょ!?」

山崎が得た情報を簡潔にまとめると。
白夜叉は力ずくで止めろ、ということだ。

絶望的かつ予想していた結果に、この一日の聞き込みの任務は、必要だったのか?と、土方は頭が痛くなってくるのを感じつつ「ご苦労」と山崎の肩を叩いた。






 
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