空を仰ぐ

□第十四章『結局は、自分で答えを見つけるしかない』
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心が枯れるまで。
人を愛しただけだった。










「んー…まいったな、こりゃ」

銀時は首を捻り、何度目かわからない声を漏らす。
そこまで参っているわけではなかったが、先程から同じ状況が続いているのだから、そろそろ変化を望んでしまうのは必然である。

悩みの種は、銀時の目の前に横たわる男だ。
何度、声をかけても男は起きる気配がなく、変わらない光景に飽々していた。
胸に耳を当ててみると鼓動はしっかりと聞こえ。そのまま顔を上げ見れば、呑気に寝息を立てている。
つまりは、熟睡中である。

「まぁ、死んでるわけじゃねーし…起きねェ方が悪いんだよな、うん」

と言いつつも罪の意識からか、銀時は暗示をかけるように自分を擁護した。
そして自己満足したころで、寝ている男を思い切り蹴飛ばす。

「聞ぃ!こぉ!えぇ!ねぇ!のぉ!かぁ!!起きろってんだろ!!」
「…いっ!!」

ドカッと鳴り響く鈍い音と共に、男の唸り声が聞こえた。
流石に目を覚ましたらしい。

「やっと起きたか、コノヤロー」
「…ってぇ…な。何すんだよ!!」
「てめーが起きねぇからだろうが」
「だからって乱暴に起こすこたァねーだろ!!」

蹴られた脇腹を抱え込み、立ち上がる男は銀時のよく知った顔だった。
自分と同じ赤い瞳に白い髪。姿形が瓜二つで双子のようである。

「いってぇな…テメェぶっ殺されてーのか!!」
「殺す?…ふーん」
「なんだよ」
「武器も何もねェのに殺せんの?」
「…!!」

白夜叉がハッとして腰に手をやると、そこに差していた筈の刀が無くなっており、視線を移すと銀時の手にそれが握られているのが映った。

「…返しやがれ!!」
「嫌だね」
「銀時、テメェ…!!」
「殺すぞって言ってる奴に、なんで渡さなきゃなんねーの」

銀時は白夜叉の凄味を利かせた睨みにも動じず、じっと見つめ返して、奪った刀を手で遊び始めた。

飄々と、お前はそんなに俺を殺したいわけ?とか、そんなに俺が憎いか?とか、次々に質問を投げ掛ける銀時に、白夜叉は苛立った様子で乱暴に掴みかかった。

その手を払いもせずに、ようやくここで黙る銀時。



「うっせェ!!」

白夜叉は握った拳に力を入れた。その様子をチラリと見た銀時は一言、
「殴れよ」そう言う。
そこには、動揺も、焦燥も、感情を微塵も感じさせない人間が立っていた。

「!?」
「殴れよ、俺を。それで許されるとは…思ってねぇけど」
「な…何を言って……」
「悪かったな、今まで」
「…っ」

じわり、と冷たい氷が溶けていく。
身体から血が流れ出ていくような、感覚。それでいて、泣きたくなる程に優しく包み込まれる温かさ。
身を任せてしまえば、楽になれるかもしれない。そんな考えが頭を過ったが、氷が溶けきった後に自分には何も残らないようで。
それが怖くて白夜叉は銀時を突き放した。

「…んだよ、急に。気持ち悪りぃ奴だな」

そのまま俯いた白夜叉は、顔を上げることがなかった。
今の自分が、きっと情けない顔をしていると思ったからだ。
銀時に見せられたもんじゃない。

「お前ばかり辛い思いをさせちまったな」
「…知ったような口を利くな、お前に俺の何がわかるんだ?」
「……」
「俺はお前の為に、いろいろやってやったよな!?」
「…あぁ」
「なのにお前は…あの戦以降、俺の存在を消そうとした!俺なんか始めから居なかったかのように、存在していなかったかのように!!」

以降。銀時は黙って白夜叉の話を聞いていた。
白夜叉がせせら笑うと、同じ様に空気が震撼する。
血を吐くような叫びを、銀時は無表情で受け止めた。

「なぁ、銀時…人間にとって一番辛いことってなんだと思う?」



白夜叉は一呼吸置いて、

「自分の存在を否定されることなんだぜ?」

そう言った。






 
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