空を仰ぐ

□第八章『思っているだけじゃ届きません』
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やけに早い呼吸、荒い息遣いが聞こえ、新八は後方を振り返った。
すぐ後ろを走るのは額に汗を滲ませ、顔を赤らめ走る神楽だ。
何か声を掛けようとしたが、開きかけた口を閉じて桂の後に続く。

昨日今日で神楽の体が完全に回復するわけもない、歩く事でさえ体に負担がかかるというのに。
それを走っているのだから、驚きである。


三人は病室を出て、白夜叉が起こしているであろう騒ぎの中心へ向かっていた。
神楽は病人である為、病院関係者に見つからないよう気を付けながら、抜け出した。
外に出て驚いたのは、思った以上に町は普段通りだったということ。
町民等は何やら騒ぎを嗅ぎ付けていたようだが、ただの喧嘩ぐらいにしか思っていなかったのだろう。
かぶき町では、殴り合いやら口喧嘩は毎日のように起こっている。
廃刀令により、真剣での斬り合いなど無くなったものの、荒くれ者が集まる町では特に不自然な光景ではなかったのかもしれない。

「そう遠くはないはずだ。いつでも戦える準備をしておけ」
「はい!」

白夜叉はただ暴れまわっているわけでも無さそうで、如何せん音がしない。場所が把握出来なかったが、先程窓から見下ろした景色を思い出して三人は先を急いだ。静かな町を走りつつ。
もしかすると、すでに誰かが犠牲になったのか。
それとも、誰かが白夜叉の動きを止めているのか。
そんな事が頭を過った。
どちらにせよ、早く向かわねばならないのは確かであるが。

「…いっ」
「…!?神楽ちゃん!大丈夫?」

神楽は足を止め、身を屈めてしまった。やはり無理をしていたらしい。

「傷、痛む?」

黙って頷く神楽。
新八が顔を覗き込むと、神楽は目を強く瞑り、痛みに耐えているようであった。

「リーダー。今からでも遅くない、病院に引き返し…」
「嫌アル!!」
「気持ちは分かるが、白夜叉にやられては元も子もないのだぞ?」
「…でも、私が行けば銀ちゃんに戻るかもしれないんデショ?」
「まぁ…そうだが…」

困り顔の桂に、新八は力強く頷いてみせる。

「桂さん。先に行ってて下さい。僕達も後から行きます」
「新八くん…」
「大丈夫です。神楽ちゃんは僕に任せて下さい」
「…わかった」

新八は神楽に肩を貸し立ち上がると、ゆっくりと歩き始めた。
神楽を置いていくわけにもいかないし、先を急がなくはならない。ここは、桂に様子を見てもらい。自分達は後から合流することにしたのだ。

桂は新八の言葉に頷くと、先に騒ぎがあった場所へと向かった。












「ねェ新八…」
「何?」
「銀ちゃん…なんで私達に白夜叉のこと言わなかったネ…」

神楽は前を向いたまま、そんなことを呟いた。
弱々しい声に、新八の声色も自然と優しい色を纏う。

「たぶん。心配をかけたくなかったんじゃない…かな」
「アイツいつもそうアルな」
「あはは……そうだね」
「でも隠し事されると辛いネ…なんだか信用されてないみたいアル」

前を向いていた新八には、神楽の顔は見えない。

「信用か…。でも神楽ちゃんのこと信用してなかったら、一緒に生活したりしないと思うけどな。銀さん」
「……」
「何も隠さずに全部をさらけ出す、っていうのも良いかもしれないけど。僕は優しさってそれだけじゃないと思うんだ」
「…?」
「時には嘘をついたり、隠したり、そんなのも優しさだと思うよ。信用とかそんなんじゃなくて…上手く言えないけどさ」

あぁ、でも銀さんは嘘はつかない人だね。と付け加えて。

「難しいネ…」
「本当の優しさっていうのは、思いやりがあること。だと僕は思う」
「…思いやり?」
「そう。相手を想って行動することさ。自分よりも相手を優先してね。銀さんも銀さんなりに僕達のことを考えてくれたんだよ」

「…優しさって時に残酷アル」

相手のことを思い、行動を起こしたとして。相手はそれを優しさと捉えず裏目に出ることもある。
それでも、その時考えられる全てのことを考えての行動であれば、それが優しさなんじゃないだろうか。


否、本当の優しさについて誰も知らないのかもしれない。

「そうかもね…」

だが、ただ一つ言えることは。
『見返りを求めず,純粋な気持ち』を持った行為に、人は心を寄せるということ。
何故銀時の周りに人が集まり、惹き付けられるのか?
新八には、その理由が分かった気がした。





 
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