空を仰ぐ

□第五章『暗闇では懐中電灯を忘れずに』
1ページ/2ページ



銀時は辺りを見回した。
目を開ければ、そこは真っ暗で。
前に手を出して見ると、辛うじて手が見える暗さだった。
音がなく静かなこの場所で、やたら自分の息づかいが耳につく。

はて、いつだったか。
前にもこんなことがあったなと銀時は自身の記憶を辿った。
たしか、あの時は――

「…!」

ふと背後に自分以外の気配を感じ、瞬時に強ばる体で身構える。
振り返れば、そこにはぼんやりと確認できる、よく知った顔があった。

「久しぶりだな、兄弟」
「…テメェ」

凄味をきかせて睨み付ける銀時に対し、その男は楽しそうにケタケタと笑った。
その様子は本当に楽しそうで。
銀時にとっては、それがまた癇に障る。








白夜叉。
自分が作り出した、もう一人の自分。

対峙する自分と同じ顔に、昔はそれほど嫌味を感じることもなかったが、不思議と今はあまり良い気分がしなかった。
その原因は、純粋な瞳を持った幼い自分ではなく、オッサンになった自分の姿を改めて見ることが嫌だから。
はたまた、実際の自分はこんな奴よりも、もっと格好いいだろうから。
と、考えたのだが。

「銀時。俺はようやく表に出てこれたんだ。少しは遊ばせてもらうぜ?」
「残念。テメェには早く引っ込んでもらう予定だ。悪りぃな」
「ふーん…お前には護るものがあるからか?」
「そうだ」

そんな呑気なことも考えていられない。と、銀時は木刀を腰から引き抜いた。
春雨の件も気になるし、こんなところで『自分』相手に会話をしている時間が惜しかったのだ。
白夜叉を倒したところで、元に戻るかは分からないが、その方法しか思い付かなかった為に、木刀を手に取った。
とにもかくにも、自分はこんなところに長くはいられないのである。

昔と違って。




「護るものねぇ…アイツとの約束。そんなに大切?」
「……」

もちろん白夜叉だって、松陽の存在は知っている。
ただ、その恩師に対して、銀時と同じ感情を持っているかは別であるが。

「んな約束忘れちまえよ。吉田松陽…だっけか?アイツもう死んでんじゃねーか」



 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ