空を仰ぐ

□第二章『準備体操はしっかりと』
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宇宙海賊団、春雨戦艦内――



「へぇー…新型の薬?それってどんな作用なの?阿伏兎」



綺麗なオレンジ色の髪を三つ編みにした小柄な男が、ニコニコと笑顔でそう尋ねた。
その男、歩く度にアホ毛がフヨフヨと跳ね、容姿は幼く見えるのだが。
笑顔を作っているせいか、何処となく冷たい印象を受ける。

「なんだか…筋肉細胞に働きかけて、細胞分裂を活発にさせるとかぁ?まぁ…簡単に言うと力を増幅させる薬だ」

阿伏兎と呼ばれた男が「うーん」と唸り声をあげながら、そう答えた。
阿伏兎自身、薬の効能はよく理解していないらしい。

「なにそれ楽しそう!!」
「そうか…?団長のことだ、どうせ強い奴と戦えるとか思ってるんだろ」
「当たり前だろ」
「ったく、戦ってどうするんだよ」
「…??なんで?」

「なんで?って…そりゃぁ、薬を使った人間はこっちの戦力、つまり仲間になるんだ。味方同士やりあってどーすんだよ」
「あ、なるほどね。でもさ、ソイツ等は俺達の言うこと、ちゃんと聞くの?」
「それが、その薬は麻薬に似た成分も含まれているみたいでよ。精神までぶっ壊しちまうんだと」
「へぇー…」

神威にとって自分を満足させてくれる存在ならば、中身なんてどうでも良いのだ。
たとえ精神がおかしくなろうが、相手が強ければそれでいい。

「そういえば、団長お気に入りの銀髪侍も実験の候補に入っていたぞ?」
「本当!?あのお侍さんに薬を使ったらどうなるのかな? 一度死合ってみたいなァ」

神威の笑顔は変わらず貼り付いたままだが、阿付兎には神威が纏っていた空気が変化したように感じた。
そのことに気付かないフリをしつつ、何か変なことを考えているんじゃないかと少しだけ顔を歪める。

「すぐにでも実験が始まるらしい」
「じゃあ、あのお侍さんは俺が担当するからって伝えといてね」
「団長、まさかとは思うが…」
「あぁー!!お腹空いちゃったな、早く飯にしよ」

そう言うと神威は、鼻歌を歌いながら先に行ってしまった。





「おいおい…勘弁してくれよ。いつも後始末は誰がやってると思ってんだ、このすっとこどっこい」

阿伏兎は溜め息混じりにそう呟くと、ゆっくり神威の後を追った。



 
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