空を仰ぐ

□第十二章『地球上で平等なのは時間だけ』
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銀時は神楽に刀を降り下ろす。

「!!」

咄嗟に後ろに退いた神楽は、空中で傘を構えた。
先程まで自分が居た場所は刀の刃先が地面に突き刺さっており、舞い上がった砂利や砂埃が二人の間にカーテンを作る。
その造形が崩れるより先に、銀時の血のように赤い瞳が、逃げた標的を捉えて妖しく光った。

銀時はすぐに地面を蹴り、空中で動けない神楽に次の一手を繰り出す。
その動きは目で追えないほどに速く。
それはまるで。
スローで世界が進む中で、一人だけ
速さを失うことなく通常時間で動いているような動き。

「どいつもこいつも…うぜェんだよ。さっさと死ね」
「お前こそ、さっさと銀ちゃん返すアル」
「はぁ?俺は何もしてねーんだけど」
「じゃあ、さっさと消えるアル」
「…そりゃ無理だな」

傘で何とか受け止めた刀を払いのけ、神楽は地に足が付いた瞬間に銀時の懐に飛び込んだ。
反撃のチャンスにもかかわらず、
傘に備え付けてあるマシンガンの引き金が、引けない。
負傷したわけではないのに、ズキリと痛む胸に神楽の表情が悲痛に歪んだ。




「どうした?」

戸惑う神楽に向かって。
わざとらしく、銀時は笑うのだ。
今までの笑みとは違って温かく柔らかく。
まるで、いつもの銀時のように。

「……やめろ!お前、銀ちゃんの真似するなヨ!」
「俺だってアイツの一部分なんだ。真似てるわけじゃねーさ」
「卑怯者!!そんな顔されたら……」
「何も出来ない、ってか?」

腕を蹴り上げられ、傘はクルクルと宙に舞う。

「!!…しまっ」

防ぐものは何もない。
逃げることは許されない。
攻撃することも出来ない。

動く事が出来ない神楽に、銀時は冷たく言い放った。

「じゃあな」と。


激痛が体を襲い、視界が赤く染まる。
飛び散る液体は生暖かくて。自分の鼓動がやたら耳についた。
神楽ちゃん!!という叫び声が聞こえて。結局自分は銀時に何かしてあげられたのだろうかと、考えた。















倒れこんだ神楽に、近付いて。
ヒューヒューと浅く呼吸を繰り返し、口から血を吐き出す少女に
銀時は穏やかな声で問い掛けた。

「教えてくれ。俺にはわからねェんだ」

虚ろな青い眼が白色を映したが、その瞳は動くことはなかった。

「いつか捨てられちまうかもしれねェんだぞ。人間なんて、いざとなれば自分の利益しか考えねぇ。簡単に裏切って、騙すんだ。最終的にはテメェのことしか考えねーしな」





「それでも、大切だって。言うのかお前等は」

銀時は叫びながら此方に駆けてくる新八に視線を向け、刀を構えた。


次のターゲットは。新八だ。










 
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