空を仰ぐ

□第十一章『何かを得るたび、何かを失う』
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あまりにも激しく開けられた為か襖はガタンと外れ、しまいには倒れてしまって。




「…銀ちゃんっ!!」

神楽は部屋に入ってくるなり、いの一番に銀時に飛び付いた。

「ちょ…いてぇ!!まだ傷が…」
「銀さん!!無事で良かった…心配しましたよ!!」
「だから!!…来んなって!傷が開いちまう!!」

新八も負けじと銀時に駆け寄って、身体を抱き締める。
唖然とする土方を尻目に、二人は笑顔で着物に顔を埋めていた。
僅かに残る血の匂いに一瞬、顔を歪ませながら。

土方は、部屋に入るなり飛び付いた神楽と新八に、コイツ等は銀時の今の状態が白夜叉ではないと知っていたのだろうか。なんて考えて、
まぁ自分と大人しく話をしていたのだから、言葉を交わさずとも正体が分かったのか、との結論に至る。






二人に続いて、沖田達もぞろぞろと部屋に入ってきた。
見れば桂は無表情。坂本は口元が緩みニヤついている。
指名手配犯である桂が、平然と屯所にいるのが何とも不思議な光景であるが。
桂は白夜叉について何か知っていることがあると思われていたし、屯所に連れて来てしまえば隙を見せた瞬間、捕まえることも出来る。と、一石二鳥だったが故に作り出された光景である。


それ程広くはない医務室には現在、大人四人に、子供が三人。
先程まで二人きりだった部屋も、あっという間に人口密度が上がり、なんだか窮屈に感じた。

「土方さん、頼まれた通りコイツ等を連れて来ましたぜィ。まったく人使いが荒いんだから」
「ご苦労だったな。で…総悟、てめぇは帰って来て早々何をしてやがる、俺に向けているコレをどけろ」

沖田の手にはバズーカ。もちろん、銃口は土方に向いていて
土方は慌ててバズーカを手で退けた。

「何、旦那と二人でセンチメンタル決め込んでるんですかィ?」
「なっ…!!話をしてただけだろうが!!」
「気持ち悪ぃ、土方死ねよ」
「てめ…いい加減にしろ!!それが上司に対する口の聞き方か!?たたっ斬るぞ!!」
「あーうるさいうるさい。土方さんは二言目には必ずたたっ斬るだもんなァ」

二人が顔を合わせれば、いつも喧嘩。
こんな毎度の些細なことが、日常が戻りつつあることを教えてくれた。
二人を見て笑っている銀時に、桂は何処か溜め息が混じった声色で、もう体は平気なのか、と尋ねる。

「あぁ。傷も思ったより浅くてさ。もう歩けるんじゃねーかな」
「そうか、だが無理はするんじゃないぞ」
「おう」

続いて、色眼鏡を光らせて、坂本が銀時の顔を覗きこんだ。

「久しぶりじゃのう金時、無事そうで何よりやき!!まぁ、おんしは簡単に死にゃあせんと思っとったけどな!!」
「辰馬、わざわざ来てもらっちまって…悪ぃ」
「ん?なんじゃ金時らしくないのう。コレも薬の影響か?」

坂本は、あははは、と声を出して笑っていたが、一方で桂は首を傾げて気難しい顔をしていた。
銀時はそんな桂の様子が気になって、どうした?と声をかけたが「何でもない」の一言で返されてしまう。



と、
カチャンと手首に冷たい感触。そして、途端に自由が利かなくなる腕。

「…!!」

土方が再び手錠をかけたのだ。

「どうやって外したんだよ。ぬかりねぇな、テメェは」
「おい、特別協定中ではなかったのか!?」
「特別協定…?もうコイツは元に戻ってるんだ。んなもん破棄だ」

土方はニタリと邪悪な笑みで桂を見下すと、煙草の煙を吐き出した。
その様子に悔しそうに奥歯を噛み締める桂。
背後から、ぬっ、と沖田が顔を出し、手に持っている『瞬間接着剤』と書かれたチューブを開けて、手錠の鍵穴部分を液体で埋めていくことにも気付かずに。

「……!?貴様、何をしている!!」
「何って、接着剤をつけてるんでィ。これで簡単に外れないだろ」

桂は慌てて指を使い、液体を掬ってみたが
既に固まり始めていた液体は指をも接着しようと粘りを出すばかりだ。

「おい、総悟…接着剤なんざつけちまったら、俺達も外せねぇだろが」
「あー…そうなりますねィ、気がつかなかった気がつかなかった」
「テメェ…わざとだろ」

そんな土方と沖田のやり取りの隣で、桂は指がくっついた!と慌てふためいていた。
手錠を外そうと腕をブンブン振り回し、指を元に戻そうと引っ張ったりかじったりしている。無論、外れるわけがないのだが。







 
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