空を仰ぐ

□第八章『思っているだけじゃ届きません』
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「なんだよ。二人とも腕が鈍っちまったなぁ」

銀時は心底つまらなさそうに、担いだ木刀でトントンと肩にリズムを刻んでいる。
その光景は、剣術の稽古中。軽々と弟子の相手をする師ようにも見える。

「あははは……年を取るのは嫌ぜよ」
「何の策もなしには、傷一つつけられぬか」

一方、息が上がっている二人。
刀を交えてから、未だ銀時の体に傷を付けることは出来ず。時間ばかりが過ぎていた。
こちらも傷は無かったが、このままでは平行線。むしろ劣勢。
だが、神楽がこの場所に到着すればこちらが優勢になるだろう。それまで二人で時間を稼ぐしかない。

「俺が先に行く。隙を見て、頼む」




桂が先に走り出し、銀時の間合いに飛び込んでいった。
横から払うように繰り出された木刀を、ステップを踏むように避けると、地面の砂を蹴り上げる。
銀時と桂の間にそれは薄い膜を作り上げ、同時に目に砂利が入り込み視界を奪った。

「っ!!」

銀時が顔を背け、一瞬動きを止める。
桂は、その隙に背後に回り込み剣を降り下ろした。


早い。
常人では何が起こったかわからぬままに、斬り付けられていただろう。
だが、

「…んな小技、効かねェよ!!」

銀時は桂の気配を読み、振り返るままに刀を払い、腕を斬る。
しかし可笑しなことに。ここで笑みを浮かべたのは桂の方で。

「…坂本!!」

血飛沫越しに、桂が笑ったのが見えた銀時は、
しまった。と思った。
同時に脚には痛みが走り、見れば布地にジワリと血が滲んでいるではないか、血の量を見るに大動脈は外れたようだが。

顔を上げると坂本がこちらに向かい銃を構えている。
どうやら桂に気をとられているうちに、撃たれたらしい。



「テメェらァァァァァ!!!」



銀時は、凄味を利かせ二人を睨み付ける。
その姿に野次馬等も思わず息を呑んだ。
目に見えない恐怖がその場を支配する。
殺気だ。

「まともに挑んでも、貴様相手は少し厳しいからな」
「ヅラぁ。わしら息ピッタリじゃのう!!」
「ヅラじゃない、桂だ!!」

そんな中、二人はこの殺気に当てられても何ともないのか、平然とそこに立っていた。
これは只の喧嘩ではない。
ただならぬ気配を感じ、野次馬等はその場を急いで去り始めた。



「…ん?」桂は今しがた斬られた腕の傷が痛むのを感じ、はたと気が付いた。
何故、白夜叉は木刀を使っているのか?、と。
この傷も真剣ならば、腕一本奪うことも出来たかもしれないのに。
それほど本気を出していないということなのか?
しかし、自身が体を使える猶予は今日を入れてあと二日。そんなお遊びをしている時間などないだろうに。




「…これは銀時の体なんだぞ?んな傷付けやがって」

この言葉に、桂の思考はそこで止まった。
観衆が引いていくのを視界に入れ、脚を庇って木刀を構え直す銀時に視線を戻す。

「薬の効果が切れるまで、大人しくしていてもらう為だ…銀時も仲間を護るためなら、そんな傷くらい気にしないだろう」
「ふん…ずいぶん勝手な奴等だな」
「さぁ、どちらが勝手だろうな」

とは、言ってみたものの。
やはり致命傷を与えるわけにはいかず、只でさえ余裕がない二人にとって、銀時の体を考えながら戦うことは至難の業である。








「……調子にのんじゃねェ!!」

銀時の殺気が唐突に膨れ上がり、空気が揺れた。
肌を、全身をビリリと電気のようなものが駆け巡る。

銀時は息荒く、完全に目が据わっていた。
視線を外そうにも外せない。紅い瞳は二人を捕らえて離さない。

















「銀ちゃん……もう、やめてヨ!!」

その時。
三人以外、もう誰も居なくなった筈のその場所に、
悲痛な、それでいて澄み切った少女の叫びが響いた。






 
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