BLEACH
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「…ったく、なんで俺が…」
「まぁまぁ、今に始まったことじゃないじゃないっすか、黒崎サン♪」
陽気に笑う浦原に、一護は本日数回目となるため息をつく。それは、綺麗な裏山の空気に吸い込まれていった。ソウルソサエティから帰ってきて約一週間。平和な日常に戻ったと思ったらこれだ。
只今朝っぱらのAM5:30。
『おはようございます、黒崎サン!早起きは三文の得、と言うことでぇ、宝探しと洒落込みませんか?』
なんてふざけた駄菓子屋の店長が叩き起こしに来なければ、10時まで寝ているはずだった。
「…高校生の休みの貴重さなめんなよ…」
ぼやきたくもなる。
「まぁまぁ、でも、ちゃんと来てくれたじゃないっすか」
「あんたに叩き起こされたんだよ!!」
一護はぐわっと怒鳴ると、ふぅ、と息をついた。
「で?なんだよ、その“宝探し”って」
「えぇ…」
浦原はそう言うと、少し神妙な顔をする。
「アタシも詳しいことは分からないんですが…どうも変なんですよ。」
「変?」
「霊的な何かか…はたまた別の何かが…それはハッキリしないんですが、分かっているのは、この辺の霊気が乱れているってことっす」
浦原はぱっと笑って指を立てた。
「霊気って言われてもなぁ」
「まぁ黒崎サンは霊圧探知能力が限りなく低いっすからね。分からなくてもしょうがないっすよ」
「……」
「霊気の乱れっていうのは自然的か人為的かに分かれるんすが…どうも今回は後者のようなんです」
「人為的ってことか?」
「はい」
表情を引き締めた一護に浦原は頷く。
「『何か』がここに潜伏していて、そのせいで乱れているってことっす。」
「『何か』…?」
「アタシにも分かりませんから、今は『何か』とだけ」
「虚じゃねぇのか?」
「その可能性が高いですが、断言は出来ません。…どうも、妙過ぎる」
「妙って…」
「とりあえず、見つけたらアタシに」
「…あぁ、分かった」
一護は浦原に頷くと、浦原とは逆の方へ足を向ける。
「霊気の乱れ、な」
よく分からない。
浦原の言うとおり、一護はそういうのには向かないらしい。
「石田辺りは得意そうだな」
頭に浮かんだ眼鏡を思い、一護は少し悔しくなる。
「あん?」
ふと、何かが光ったような気がした。
ばっと走ってみると、そこには小さな祠がある。
「こんなのがあったのか…」
一護はそれに少し感心しながら、辺りを見回した。
「…気のせいか…?」
何か光ったような気がしたんだけどな…一護は頭をかきながら眉を寄せる。
チカ
「!!」
緑色の光が目の端に写り、一護は慌てて刀を抜いた。
「誰だ!!」
─しん
「……気のせい、か…」
《…ほ、》
「誰だああああ!!!」
《わああああああああ!!!!!》
ピカァアアアアアアア!!!
刀を向けた先で、緑色の光が弾ける。
それが自身を包み込んだ所で、一護の意識は途絶えた。
さわ さわ
「う…」
一護は頭を抑えながら起き上がった。
「てぇ…どこだ、ここ」
穏やかに流れる小川のほとり。
どう考えても、一高の裏山じゃあない。
一護は暫く、ぼんやりとその川を眺めた。
ざばっ
「どわぁ!!」
今まで穏やかだった小川が急に波立ち、一護は思わず声を挙げる。
川の中から、オレンジの髪の少女がいきなり出てこれば、そりゃあ驚くだろう。
少女は、口にビチビチとまだ生きている魚をくわえ一護には全く気もくれない。
一護には、その横顔に見覚えがあった。
「……妃奈…?」
「……?」
妃奈は、その時初めて一護を向いた。その赤い目は、少し驚きに開かれている。
「何やってんだよ、こんなとこで…」
「……」
妃奈は一護の言葉に、こてん、と首を傾げると、くわえていた魚を籠に置き、一護に寄った。
「つーか、濡れたままじゃ風邪ひ─」
一護の言葉は途切れる。妃奈は、一護の首もとに顔を寄せ、すんすんと匂いを嗅いでいた。
「な、あ、あ!?」
一護は思わずざざっと後ずさる。
「おま、おまなにし…」
「なんで─」
「あん?」
漸く声を発した妃奈に、少し裏返りながらも一護は返事をする。妃奈はまたこてん、と顔を傾けた。
「なんで妃奈の名前知ってるの?」
「…は?」
若干不機嫌そうに、眉を寄せて言う姿は妃奈そのものだ。が、一護は、妃奈の全体を写して、はっと気がつく。
「妃奈、髪…切ったか?」
「?」
妃奈の髪は長かった筈だ。腰上辺りまでの髪を二つに結っていた。
だが、目の前の妃奈は違う。
肩につかない程度の髪の長さ。そして、いつも持っている番傘は見当たらない。
そして、一番引っかかっていること。
まるで、妃奈は、一護を初めて見るような顔をしている。