トリコ

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『お待たせ』

「うん、今日も可愛いね」

『う"....... 』


慣れない。慣れないよ。
このイタリア人のようなノリ。

実は昨夜、夕飯の後のまったりタイムにココからお給料を渡された。


「はい」

『なに?これは』


ココは茶色い封筒をあたしに差し出してきた。
手紙なんかあたしに届くわけないし。
首を傾けてココに尋ねる。


「何って......お給料だけど」

『日払い?!』

「うん。ボクの場合、毎日お店を開けるわけじゃないし。それにやっぱり細かい欲しいものとか、あるんじゃないかなと思って」

『ココ......正直助かる。一文ナシはちょっと不便だから』

「よかった、じゃあ.....はい。お疲れさまでした」

『ありがとう!』


あたしは差し出された茶封筒を受け取り中身を確認した。
ピラリと出てきたのは1万円也。


『待った!』


あたしに背を向け歩き出すココの服を引っ張り止める。
ロクに働いてないあたしに1万円?
朝ちょっと掃除したくらいだよ?


「どうかした?......あっ、足りない?じゃあ待ってて今.....」

『逆!逆!多いの!』

「何が?」

『お給料が!』

「............ダメ?」

『もらいすぎ!』


いくらなんでも日当1万円は高いよ。
ぶっちゃけ、ソファーに座って本を読んでただけだかんね?


「べつにいいじゃない。好きなもの買って?」

『よくない〜〜こんなにもらえません!』

「.............」

『.............』


沈黙が続く。見つめ合う二人。
先にしびれを切らしたのはココだった。


「なかなか強情だね、フィーも」

『それはココも同じ』

「.......わかった。それを受け取らないなら.......仕事はさせない」

『なっ!』

「フフッ、ボクだって負けないよ」

『そんなぁ、じゃあせめて半分!』

「やだ」

『なんで?!』

「........細かいの、持ってない」


おおぅ、そうですか。
ココいつもカードだもんね。
限度額無制限のカードとか言ってたもんなぁ。
5,000円とか1,000円なんて持ってないって言うのね。

仕方ない。
ここは大人しくもらっておいて、月に1回食費と共益費ってことにして多く支払い返すしかない。


『わかった。ありがとうございます』

「こっそり返さないでね?」

『......鋭いな(ボソッ) もちろん返しませんよ?大丈夫』

「そう?ならいいけど。明日もよろしくね」


と、まぁこんな風にもらったのだ。
今日も本を読んでる場合ではない。
しっかり働かねば。
開店時間になり、ココの占いが始まる。


『とりあえずこの部屋をキレイにするかな』


私の控え室になっているココの書斎らしきこの部屋。
パタパタと動き回り、だいたい片付いた頃だった。


ピリリリリリリ


『ココの携帯だ』


携帯が鳴った時はとりあえず誰か確認して、IGOだったらドアをノックして知らせて欲しいと言われている。

ちなみにトリコの場合は後でかけ直すから呼ばなくていいらしい。
緊急だったらどうするんだろうね。

携帯を確認すると画面にはIGOの表示。
あたしは慌ててドアをノックする。
もちろん声は出しません。


トントントン


「IGOから?」


部屋にココが入ってきた。
あたしは無言でうなずき、携帯を差し出した。


「もしもし.....はい、はい」


トリコたちに何かあったのだろうか。
少し不安になる。


「可能です、今から占います。じゃあ後ほど 」


ココはそう言って電話を切ると「フィー、すぐに着替えて」と言って占いの部屋に戻って行った。


「今日はもう店は終わりだ。今閉めてきた。行くよ」


ココはあたしの肩に手を回し、急いで外へと出た。


「キーーッス!!ピュイ」

『えっ?ここに呼ぶの?』


いつものように指笛でキッスを呼ぶココ。
その声に反応したのはキッスだけじゃなかった。



「きゃあ!ココ様よ!」

「ココ様〜〜どこへ行かれるの?」

「どうして占ってくれないんですか?」


今まで並んでいた客が一気にココに押し寄せる。

そりゃそうだ。

並んで待っていたのに突然 "はい、閉店 " じゃこうなるよ。
ココに会いたくて待っている人もいるだろうし。
わらわらと走り寄ってくる彼女たち。


『わっ!わっ!ココ!どうしよう!』


走り寄る彼女たちに圧倒されてしまい、ココを見上げる。
ココはそんな私を見ると、ふわりと笑い、いつものようにヒョイと抱き上げ彼女たちに視線を向けた。


「ボクたちに近寄らないで!!」


ココは今までとは明らかに違った強い言い方で彼女たちを止めた。
それと同時にバサバサと降り立ったキッス。

「行くよ、フィー」

『うん........』


唖然とあたしたちを見つめる彼女たちの輪の中から飛び立った。


『ココ......彼女たち、大丈夫?』

「ボクだけの時ならなんとかなるけど、フィーがいるのに群がられたら危険だ。あのくらい当然だよ」

『........ありがとう』

「当たり前だよ。ボクの大事なフィオナ」


ココは笑いながら頭を撫でてくれた。
並んで待っていた彼女たちには悪いけど、正直かなり嬉しい。

ココは基本的に女性に優しい。
あんな風に群がる彼女たちにも「近づかないで〜〜」と口では言ってるけど、私からしたら "あんなの聞くわけないのに" だった。

それがあんなに強く言うなんて。
しかも私が一緒の時に。
やっぱり彼女としては「自分だけに優しい」がいいよね、うん。


「どうしたの?フィー。ニヤニヤして」

『え?顔に出てた?』


あわてて頬を手で隠す。


「いいことでもあったの?」

『ココに惚れ直してたところ』

「ボクに?それは嬉しいね」


ココは後ろからあたしの頭にキスをしてくれた。
この感じがたまらなく好きだ。


『ところでココ。IGOに向かってるの?』

「そう。トリコたちを迎えに行くことにした節乃さんがね、トリコたちがアイスヘルのどの辺りにいるか占って欲しいって」

『節乃さんが?』

「うん、IGOで待ってる。おそらくボクが先導することになる。フィーは.......」

『行く!』

「寒いよ?」

『上陸するの?』


前に極寒の地って言ってたよね。
こんな軽装で行ったら間違いなく死ぬ。
上陸するならIGOで待ちますとも。



「いや、たぶん大丈夫じゃないかな。節乃さんがリムジンクラゲを出すって言ってたから、その中で待たせてもらえば寒くないよ」

『リムジンクラゲ?』

「ボクも見たことはないんだけど、節乃さんのペットでね。噂では巨大なクラゲで陸海空移動可能なんだって。生態や生息地などは謎で、憶測の市場価格では超高級車数百台分でも引けを取らないと言われてる」

『クラゲが陸海空移動するんだ.....見たい』

「ボクも興味あるよ。もうすぐ会えるよ、IGOが見えてきた」


こうしてあたしたちはIGOへ向かった───
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