ツバサ・クロニクル
□旅立ち
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銀の髪の少女が広場に引き出される。
それが、終焉の合図とも知らずに。
自分の前に跪かされた少女を見、金髪に深紅の瞳の男はその薄い唇に笑みを刻む。
嘲るように、満足そうに。近付いても少女は動かず。
剣先で己の顎を持ち上げられて尚、顔色一つ変えないままひとつ、静かに瞬きをした。
―――その奥に潜んだ激情を押し隠したまま。
「何か言い残す事はあるか?」
少女は答えない。
ただ、挑むような眼差しを相手に注ぐだけだった。それに興を削がれた、男が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「そうやっていられるのも今の内だ」
『こちらの台詞』
あからさまな侮蔑を瞳に宿らせて、少女が言い放つ。
少女がこのような状態にいる特異性―――異常性。
『たとえ私が死のうとも、お前があの国を手に入れることはない』
歌うように、嘲るように。紡がれた言葉は辛辣に周囲の空気を震わせ、その声音が更に言葉を継いだ。
『そんな事もわからないとは、手の施し様がない愚か者』
「その愚か者に滅ぼされたんだろう?お前の国は」
『あんな姑息な手段を使った貴様がそのような台詞を吐くか……!』
激情に染まったその声音で吐き出した慟哭は宙を裂き、相手の唇を歪ませる。
「はっ。最後に勝ったのは、こちらだ」
『殺してやる!いつか、必ず―――!!』
「言っておれ」
激情に染まりきった瞳に理性の色はなく。優越に染まりきった声音に憐憫の色はなく。
「どうせお前はここで死ぬのだ」
ただ崩壊は目前にあった。
――男の剣が少女の胸を貫く、その刹那。
世界が、共鳴する。
残酷な物語の終わりで、一人の少女が泣いていた。