銀魂A
□第七章
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ふかふかしている足下。厚底なわたしの花魁下駄もほんの少し高級そうな赤い毛に埋れている。置いてある調度品が高級そう。さすが幕府直轄の警察庁。そしてその長官室と言ったところか。
「よく来たな、トシィ、陽向ぁ」
サングラスがトレードマーク。仕事の際は艦隊を引き連れて全てを塵と化して帰っていくことから「破壊神」の異名を持つ目の前の人物。当然本人の戦闘力も相当なもので、拳銃の腕前は相当だ。
「久しぶりだな、松平のとっつぁん。元気だったか?」
『お久しぶりです…、パ…』
…紹介文は、かっこイイけど。
『パパ…』
パパって呼ばれて目頭抑えるこの人が警察庁トップって認めたくないんだけどォ
溜息しか出ない。いまこんな状況にあるのも、原因は二日前にある。
二日前
「囮捜査だァ?」
「うむ、とっつぁんからの命でな。最近巷を騒がしている過激攘夷派浪士"漢組"の検挙に向けて動くらしい。漢組の特徴としては、デートスポットに現れ、悉く施設を破壊するらしい」
近藤さんの説明に退が苦笑いした。
「はた迷惑な奴らですね〜」
「ま、最近流行りの行楽地は天人の高技術を使ったモンばっかだからねェ。格好の餌食ってわけかィ」
『成る程…でもどうしてわたしは決定なんですか?』
真選組からの囮捜査員は2人。その内の1人は既にわたしが指名されていた。
「そりゃあなぁ!陽向はウチの唯一の女隊士なワケだし。デートスポットなら恋人を装うのが1番良いからな。
いつも通り監察のザキを女装させても良かったが、とっつぁんの強い推薦でそう決まった。だから問題は相手役なんだが…」
近藤さんはちらりと集まっている隊士を見た。特に呼んだわけでも、追い払ったわけでも無いが、集まったのはなんだか一癖ある奴ばかり。
「うーん…じゃあ、一人一人意気込みを語ってもらおうか!」
「いや近藤さんアンタ…、新学年の自己紹介じゃねーんだから」
土方さんが呆れた顔をするも、近藤さんは隊士を促す。
うん、確かに意気込みって何に対してのかな?わたしは何を審査すればいいのかな…何を
「1番、副長 沖田総悟。相手役になったら正々堂々仕事をサボれて、最高だと思いやす。ナチュラルに楽しんでみせまさァ」
「いや総悟ォォォ副長俺だろーがなにさり気なく改竄してんの」
『あぁ、総悟とかぁ、うんうん』
総悟となら楽しいかもしれない。普段ならともかく、デートしてればいいわけでしょ? わたしはひとまず頷きながら次を促した。
「2番、山崎 退。えっと…、敵に気付かれることなく潜入したいです」
『安心して。あなたの地味さを卑下しちゃだめ!大丈夫、絶対バレない!』
「いや、傷付くよ陽向」
確かに囮捜査というならやっぱり退は適任だと思う。慣れてるわけだし。近藤さんも唸っている。
「いやいや待ってください!医療班 杉田玄黒、俺も気合い入れたら超地味になれますよ。オーラ消せます。しかもナチュラルっていうか最早本物の恋人になってみせます!」
『いや、帰れよ』
「照れる必要ないんですよ、陽向さん。素直に言ってください、俺とデートしたい、とね…」
『どや顔やめて。あと、別に欠片もしたくないからね』
いい加減諦めて欲しいものなんだけど。てかコイツなに?最初は超良い子だったのになんか変なスイッチ入っちゃったよ…!だいたいわたしの何がいいの?てかそろそろストーカーとかになりそうで嫌だ。マジで嫌だ。
「スギィお前本当根性あるな!良い愛の狩人になれるぞ!」
「ありがとうございます、局長!俺、近藤さんみたいな愛の狩人目指します」
『何当たり前みたいに愛の狩人とか言ってるんですか。愛の狩人ってなんだ。まさかストーカーのことじゃないだろうな』
「陽向!ストーカーじゃない!愛を追い求める狩人だ!」
『ストーカーですね、わかります』
近藤さんったら…まだお妙ちゃんにストーカーしてたんですね。お花見の時は他人事だったけど実際されるかもしれないとなるとかなり嫌だ。
「おいトシ、お前も勿論、立候補するだろ?」
「俺が?なんでだよ」
今まで完全にストーカー談義に引いていた土方さんが驚きながら煙草を咥えた。それにわたしが火をつけて、それを見た近藤さんが豪快に笑う。
「ほら!なんだかんだ、お前が1番陽向に似合ってるからだよ!」
結局、その一言で決まってしまった。
わたしと土方さんで、恋人役。
…マジでか。