3部
□次の日記憶はない
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深夜3時すぎ、まだななしは帰ってきていない。
俺たちは同棲はしているものの、お互いのプライベートは尊重しようと、あまり干渉しあったりはしない。だから少しくらい帰りが遅くなっても、理由を問いただしたり相手を責めたりすることもない。
だが、さすがにこれは遅すぎじゃないか。
俺は柄にもなく携帯を目の届く所に置きながら、横目でそれをしきりに見ていた。
すると、携帯のバイブ音が部屋に響いた。メールではなく電話だった。
ななしからの電話だと決め付けていたからか、誰からの着信かなんて確認せずに俺はすぐに携帯を手に取った。
「おいななし、てめぇいったいどこに……」
「あぁ承太郎!君のとこのななしどうにかしてくれないか!」
電話の相手は花京院だった。花京院の呆れたような声の後ろで、かすかにななしの陽気な声が聞こえる。
「たまたま1人で飲んでた所をななしに絡まれたんだよ。帰ろうとしても、帰らせてくれないんだ!」
「ななしの奴、1人で飲んでたのか?」
「そうみたいだったね。とりあえず早く迎えに来てくれないか!」
俺は花京院から店の場所を聞くと、上着と財布と携帯を持って車に乗り込んだ。
ななしが1人で飲むことはよくあることだったが、こんな時間まで、しかも花京院に絡んでいるとなると悪酔いしたってところか。何度目かのため息をはきながら車を走らせると、すぐにその店は見つかった。
「おい花京院。」
「承太郎やっと来てくれたか。」
『あっれー、なんでここに承太郎がいんのォ?』
「僕が呼んだんだ。ていうかそろそろ離れなよ!」
そう言いながら花京院は腕に抱きついているななしを引き離そうとする。やだー、と言いながらぎゅうぎゅう花京院にしがみつくななしの腕を、俺は少し強引に引っ張る。
「ななし、いい加減にしろ。」
『なんで承太郎にそんなこと言われなきゃいけないのー?』
「花京院に迷惑かけんなよ。」
『迷惑なんてかけてないよォ!ねぇ、花京院ッ。』
「十分迷惑ですけど。」
『ひっどー!』
「早く立て。帰るぞ。」
『やだやだ、まだ飲み足りないッ!』
強引に立たせても抵抗し続けるななしと格闘していると、横で花京院が苦笑いをしていた。
最終的には俺がななしを抱き上げて車に連れていくことにした。
すまなかったなと一言と、足りるであろう酒代の金をテーブルに置いていくと花京院が手を振りながら別れを告げた。
ジタバタ暴れるななしを車の助手席に押し込みシートベルトをしめてやると、俺は運転席に回ってエンジンをかける。
酔ってたとはいえ、ななしが自分以外の男に抱きついていたのには腹がたった。しかもわざわざ迎えに来てやったのに俺をのけ者にしやがって。
そんな俺のイラつきも知らずに、隣で能天気に鼻歌を歌うななしに舌打ちをした。
その時信号が赤になり、それにあわせてななしがこちらに顔を向けると『承太郎にこんなにかまってもらえるなら、悪酔いも悪くないねー。』と言って笑った。
俺が固まっていると、ななしはそのまま眠ってしまったようだった。
俺は後ろの車からのクラクションに急かされて、慌ててアクセルを踏んだ。