それから僕とななしは一緒にいることはなくなった、一緒に話すことも。
そうなればななしは承太郎と仲良くするもんだと思ってたけど、そうじゃないみたいだ。むしろそんな姿は一度も目にしない。
少し安心してる自分がいるけど、もう僕には関係のないことだ。
僕は醜い人間なんだ。
好きな人に優しくすることもできない。
挙げ句の果てには、親友に嫉妬までして彼女を傷つけた。最低な男だ。
彼女はいつも明るくて、いつも笑っている。
ななしは僕には眩しすぎた。
だから惹かれたのかもしれない。
でも僕とななしは住む世界が違っていたんだ、それに気付いた。
ななしは僕みたいな奴と付き合うよりも、もっと良い奴と付き合ったほうがいい。
……例えば承太郎とか。
『ねぇ、花京院ッ。』
何日かすると、ななしが僕に話し掛けようとしてくる。
でも僕はななしを無視して無言でその場を立ち去る。
どんなに冷たくしても、諦めずにななしは僕の所へやってくる。
そして今日もいつものように、無視して席を立とうとした瞬間……。
『……私からにげないでよ!!』
ななしが大声をあげたことに驚いて咄嗟に後ろを振り向くと、ななしが僕の腕をつかんでどこかへ連れていこうとする。
なぜか抵抗する気にはなれなかった。
.
ななしと僕は誰もいない空き教室にやってきた。教室につくとななしは手を離してくれた。
「僕に何の用だい?」
『ちゃんと話がしたかったの。』
「僕には話すことなんてない。僕にかまわないでくれないか。」
『そうはいかない…。』
「まだ言うの?また襲うよ?」
『別にそっ、そんな脅しきかないから。』
「強がってるみたいけど、震えているよ。」
『ねぇ、なんでそんな冷たくするの?』
「僕は元からこういう人間さ。」
『違う!!』
そう言うななしの腕を掴んで、壁の方へ引っ張ると両手を壁に押しつける。
こんな僕に幻滅すればいい。
嫌いになればいい。
そうして僕を振って、違う人と幸せになればいい。
『やめて!!』
「なら僕にもう近づかないって約束して。」
『嫌だ!!』
「……はぁ。僕と君じゃ住む世界が違ったんだよ。」
『何それ…。』
「そのままの意味だよ。僕は暗くて醜い人間で、君は明るくて綺麗な人間なんだ。」
『そんなことない。』
「僕はそんな君に憧れていたのかもしれない。」
『………。』
「君に僕は釣り合わない。君に釣り合うのは承太郎みたいな奴さ。」
そう吐き捨てるように言うと、花京院はななしの腕を離して教室を出ようとした。
するといきなりの後ろからきた衝撃で花京院バランスを崩して床に転んだ。
その瞬間ななしは花京院に馬乗りになって、花京院の胸ぐらを掴んだ。ななしが花京院にタックルしたようだった。
『何それッ!!これっぽっちも納得できないんだけど!世界が違うって何よッ!!そんなの関係ないでしょうが!』
「でもこれが事実だ。」
『それならあたしが花京院を、こっちの世界ってやつに引っ張りだすよ!!』
「……ッ!!」
『……だからあたしから離れていかないで。
あたしが好きなのは花京院だけなんだよ…。』
「ななし……。」
泣き出すななしの涙が花京院の学ランを濡らしていく。
「あんなこと言ったけど僕はやっぱりななしのことが大好きなんだ。ななしにそう言ってもらえて嬉しいよ。」
『……じゃあまた一緒にいられる…?』
「あぁ、傷つけてごめん。」
『よかったぁ……。』
花京院は勢いよく抱きついてくるななしの背中に手を回す。そしてまだ痛々しく跡の残るななしの首を優しく撫でながら、その手をななしの頬に持っていき、そのままキスをした。
この前とは違う、優しくてお互いを確かめあうようなキスを。
キスがおわると、花京院は微笑みながら
「ななしが上で、僕が下ってのも案外いいね。」なんていうもんだから、ななしの顔は真っ赤になった。
.