「…ごめんそんなつもりはないんだ。」
「ちがうんだ…、こんなはずじゃない…。」
今僕の部屋で、僕の目の前でななしが泣いている。
ななしの服は乱れて、首の周りには赤い跡や薄く歯形がついている。
──あぁ、これは僕がやってしまったんだ。
僕の醜い嫉妬でななしを傷つけてしまったんだ。
さかのぼること、数分前。
恋人同士のななしと花京院は、放課後に勉強するという名目で花京院の家に来ていた。
花京院がななしに勉強を教えるという形で、──ここまではよかった。
『あっ、そこは前に承太郎に聞いたことあるよ。』
「えっ?」
『この前、承太郎の家で教えてもらった。』
当然のことのように言うななしに花京院は苛立ちを覚えた。
「ねぇ、僕と付き合ってるのに他の男の家に行くってどうかと思うけど。」
『だって承太郎だよ?』
「理由になってないけど。ずっと思ってたけど、ななしって承太郎と仲良すぎだよね。」
『そんなことない!』
「そんなにいうなら承太郎と付き合えばいいじゃないか。」
『なっ…なんでそんなこ……ッ!!』
「少し黙ってなよ…。」
ななしが言い終わるよりも早く花京院は、ななしの唇に噛み付いた。
その勢いで二人は床に倒れこむ。
『……んっ、……ちょっ……。』
激しいキスでななしの息は途切れ途切れになるが、花京院は顔をななしの首に移動し執拗に赤い跡をつける。
ななしが抵抗しようともなら、そのたびに花京院は首に歯をたてる。
『……痛いって!花京院っ!』
ななしが花京院の目を見た時、明らかにいつもの穏やかな花京院ではなかった。
花京院はそんなのお構いなしに、ななしのセーラー服に手を入れる。
『……うっ、……ひっく……。』
急にななしが大人しくなったと思い、花京院が顔を少し上げるとななしが泣いていた。
よく見ると震えているではないか。
その姿に花京院は我にかえった。
───僕は何をしてしまったんだ。
「ごめん、もう帰ってくれても構わないから……。」
そう僕が言うと、すぐにななしは制服を直してなにもいわずに僕の部屋を飛び出していった。
.