『ねぇ、承太郎。それってプロポーズ?』
「あぁ。なにか不満あるのか?」
『えっ、ないですけど。』
「それならいい。」
『っで、指輪はないんですか?』
「忘れてた、あとでな。」
普通の人であれば、するほうもされるほうも相当な一大イベントであろうプロポーズ。
私たちはそのプロポーズがついさっきなされた。
それはそれはあまりに淡白で、まぁ逆に考えれば承太郎らしいっちゃあらしいんだけど。
私もそうゆうのは疎い方だけど、やっぱりプロポーズには少なからず憧れはあった。なのにこんなにもあっさりとされると、何だか物足りないと言うか、寂しいというか。
でも今さら、そんなこと承太郎に言ったら、「熱でもあるのか?」って言われるに違いない。
正直、指輪がないのはショックだった。
承太郎とは結構長い付き合いだけど、婚約指輪を忘れるなんて本当に承太郎は私のことが好きなんだろうか?
他に相手もいないから、仕方なく私と結婚するのかな。
いや、承太郎にはたくさん選択肢はあるか。
ここまで来て不安になってる私ってなんなんだろう。これがマリッジブルー?違うか。
というか、私結婚するなんてまだ言ってないよ。と言っても、プロポーズは受けるけど。
承太郎は返事を聞かなくても確信してたみたいだけど、もしも私が断ったら、焦ったり落ち込んだりするのかな。
きっとしない、いつもみたいに「そうか」って言って終わり。
その後も、普段と何もかわりなく二人でベッドに入った。私は色んなこと考えてるのに、承太郎はもう寝ていた。
そんな寝顔を見て愛しさが込み上げるとともに、やっぱり不安になる。
一晩寝ればこの気持ちも忘れられると思って、私は早く眠ろうとした。
ななしは真夜中に目が覚めた。
特に起きてすることもなかったので、ななしは向かいで静かに眠っている承太郎を起こさないように、もう一度眠ろうとした。
すると承太郎と自分の間に置いていた左手の薬指にキラリと光るものを見つけた。それは、暗い寝室でもその存在がはっきりわかるくらい輝いているダイヤの指輪だった。
驚いて呆然としていると、隣で寝ていたはずの承太郎がクスリと笑った。そしてようやく状況を理解したななしは思わず涙ぐんだ。
『……指輪忘れたって言ってたじゃん…ッ!』
そう言って承太郎に抱きつくと、「サプライズってやつだ。」と言ってななしを片手で抱き寄せた。
『…私、世界で一番幸せ者かもしれないッ…。』
「大げさだな。」
『ううん、本当に幸せ。ありがとうね、承太郎。』
「ななしが喜んでくれてよかった。
で返事は、聞いてなかったよな?」
『えっ?』
「……ほら、そのプロポーズのだよ。」
『あっ、もちろんお受けします!!これからもよろしく。』
強く抱き締めてくれる承太郎の腕の中で、さっきまでの不安はどこかへ行ってしまったかのようにななしの胸の中はすっきりしていた。
言われてみれば、承太郎が私に背中を向けて寝たことはない。いつも私の方をむいてくれてた。
自分は承太郎の愛に気付けてなかっただけだ。いつも私を愛してくれてた。
『承太郎、愛してる。』
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