3部

□恋愛初心者
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ずっと気になっていた。
どちらかというと友達の少ない花京院が、唯一心を開いている女を。

ほらまたあいつら2人でしゃべってやがる。



『花京院この前新しく発売されたゲームどんな感じ?』

「キャラデザはいまいちだけど、ストーリーも面白いし技もかっこよかったよ。」

『本当!?欲しかったんだけど、お金なくってさ。最近違うゲーム買っちゃったんだよ。』

「また乙ゲーかい?好きだねぇ、そろそろ3次元にかえってきなよ。」

『私はちゃんと3次元と2次元の区別くらいつけてます!!
まぁ私の手にかかれば、こっちの世界でもすぐに彼氏なんて作れちゃうからさ!』

「あはは、せいぜい頑張りなよ。」

『ちょっとバカにすんなよッ!』

「してないってば!なら今日僕の家来てゲームしていくかい?」

『やった、じゃあお言葉に甘えて…。花京院大好き!!』

「ほんと調子いいんだから。」

『なんか言った?』



あの2人が他の異性と話すことは滅多にないが、お互いには心を許しているように見える。
特にななしって奴は、女友達といる時よりも花京院といるほうが楽しそうだ。
普段は見せない笑顔もあいつには見せている。

ななしは笑っているほうが、ずっといい。




俺はいつしかななしを目で追うようになっていた。

細い指、長い睫毛、小さい口、少し低い声……。


そしてあの笑顔を俺にも向けてほしいと思うようになった。
そのことを花京院に話したら、笑いながら言われた。

「承太郎、それは恋っていうんだよ。君はななしに惚れてるんだ。」


別にガキじゃあるまいし色恋沙汰で慌てるような俺じゃないが、この時ばかりは無性に恥ずかしかった。柄にもなく、赤くなった顔を隠すように帽子を深くかぶりなおした。


そして花京院は続けて言った。

「うーん、ななしはね恋に恋しちゃってるから、一筋縄ではいけないと思うよ。
まあ、頑張りたまえ承太郎。」

「おいッ、こら待ちやがれっ!!」

花京院は俺の肩に手を乗せて、慰めるような目線を送って去ってしまった。


自分の気持ちに気付いてしまったら、もう俺のもんにするしかねぇ。
が、何から始めればいいのかさっぱりわからねえ。



「しょうがないな!僕が力を貸してあげよう。毎日昼休みにななしは一人で屋上で弁当を食べるんだ。だから承太郎も屋上にいってきなよ。」

「そんないきなり2人っきりになって、何話せばいいんだよ。」

「承太郎。君って案外乙女なんだね。」

「うるっせぇ、自分から誰かを好きになったことなんて初めてなんだよ…。」


俺は、誰かに言い寄られることはあっても、自分から手に入れたいと思ったことは今までなかった。

「ゲームの話なら、ななし絶対に食い付くと思うよ。」

「そうか…。わかった、ありがとな花京院。」

「健闘を祈るよ、承太郎。」



俺は足早に屋上へ向かった。
ドアを勢いよく開けるとななしが一人、驚いた顔でこっちを振り返った。


「よう、」

『空条くん、だよね?どうしたのこんな所に?』

「いや別に理由はねぇが、外の空気が吸いたくなった。」

我ながら辛い言い訳だ。


『いいよね、屋上!私も教室いると息が詰まっちゃうっていうか……。外の空気が吸いたくなるんだ。』

なんだか食い付いてきた。


『あっごめん。馴れ馴れしかったよね。』

「そんなことねぇよ。あと俺のことも、空条じゃなくて承太郎でいい。」

『うん、わかった。承太郎くんッ!』




やっぱりこいつは笑ってるほうがずっといい。
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