ずっと気になっていた。
どちらかというと友達の少ない花京院が、唯一心を開いている女を。
ほらまたあいつら2人でしゃべってやがる。
『花京院この前新しく発売されたゲームどんな感じ?』
「キャラデザはいまいちだけど、ストーリーも面白いし技もかっこよかったよ。」
『本当!?欲しかったんだけど、お金なくってさ。最近違うゲーム買っちゃったんだよ。』
「また乙ゲーかい?好きだねぇ、そろそろ3次元にかえってきなよ。」
『私はちゃんと3次元と2次元の区別くらいつけてます!!
まぁ私の手にかかれば、こっちの世界でもすぐに彼氏なんて作れちゃうからさ!』
「あはは、せいぜい頑張りなよ。」
『ちょっとバカにすんなよッ!』
「してないってば!なら今日僕の家来てゲームしていくかい?」
『やった、じゃあお言葉に甘えて…。花京院大好き!!』
「ほんと調子いいんだから。」
『なんか言った?』
あの2人が他の異性と話すことは滅多にないが、お互いには心を許しているように見える。
特にななしって奴は、女友達といる時よりも花京院といるほうが楽しそうだ。
普段は見せない笑顔もあいつには見せている。
ななしは笑っているほうが、ずっといい。
俺はいつしかななしを目で追うようになっていた。
細い指、長い睫毛、小さい口、少し低い声……。
そしてあの笑顔を俺にも向けてほしいと思うようになった。
そのことを花京院に話したら、笑いながら言われた。
「承太郎、それは恋っていうんだよ。君はななしに惚れてるんだ。」
別にガキじゃあるまいし色恋沙汰で慌てるような俺じゃないが、この時ばかりは無性に恥ずかしかった。柄にもなく、赤くなった顔を隠すように帽子を深くかぶりなおした。
そして花京院は続けて言った。
「うーん、ななしはね恋に恋しちゃってるから、一筋縄ではいけないと思うよ。
まあ、頑張りたまえ承太郎。」
「おいッ、こら待ちやがれっ!!」
花京院は俺の肩に手を乗せて、慰めるような目線を送って去ってしまった。
自分の気持ちに気付いてしまったら、もう俺のもんにするしかねぇ。
が、何から始めればいいのかさっぱりわからねえ。
「しょうがないな!僕が力を貸してあげよう。毎日昼休みにななしは一人で屋上で弁当を食べるんだ。だから承太郎も屋上にいってきなよ。」
「そんないきなり2人っきりになって、何話せばいいんだよ。」
「承太郎。君って案外乙女なんだね。」
「うるっせぇ、自分から誰かを好きになったことなんて初めてなんだよ…。」
俺は、誰かに言い寄られることはあっても、自分から手に入れたいと思ったことは今までなかった。
「ゲームの話なら、ななし絶対に食い付くと思うよ。」
「そうか…。わかった、ありがとな花京院。」
「健闘を祈るよ、承太郎。」
俺は足早に屋上へ向かった。
ドアを勢いよく開けるとななしが一人、驚いた顔でこっちを振り返った。
「よう、」
『空条くん、だよね?どうしたのこんな所に?』
「いや別に理由はねぇが、外の空気が吸いたくなった。」
我ながら辛い言い訳だ。
『いいよね、屋上!私も教室いると息が詰まっちゃうっていうか……。外の空気が吸いたくなるんだ。』
なんだか食い付いてきた。
『あっごめん。馴れ馴れしかったよね。』
「そんなことねぇよ。あと俺のことも、空条じゃなくて承太郎でいい。」
『うん、わかった。承太郎くんッ!』
やっぱりこいつは笑ってるほうがずっといい。