『ブチャラティ、昨日頼まれていた資料まとめておきました。』
「さすがななしだな、仕事が早い。」
『これくらい当然ですよ。あっ、それと例の件で相談があるのですが。』
「そうか、なら今の仕事が終わったら話そうか。」
『ありがとうございます。ではコーヒーお持ちしますね。』
「あぁ、助かる。」
ななしはジョルノが入ってくるより少し前にこのチームに配属されてきたメンバーだ。
女性ながらも、そのハキハキした性格や仕事の早さはすぐに周りからも好まれ、今ではブチャラティチームには必要不可欠な存在になっていた。
そしてチームの紅一点であるななしを射止めたのは、レオーネ・アバッキオであった。初めは、仕事に集中したいからという理由で恋人を持とうとしていなかったななしだったが、男女が共に命を預けながら危険を乗り越えていれば、お互いに恋に落ちるのは時間の問題だった。
そこまでは何の問題もない。問題なのはそこからだった。
アバッキオは付き合ってしまえば、当然ななしは自分のものになり、自分だけを見てくれると思っていた。しかし実際は、一切付き合う前と何も変わらないななしにやきもきしていた。むしろ自分よりもブチャラティと仲良くしているななしに腹が立っていた。
ブチャラティとななしは仕事仲間のそれ以上でもなく、それ以下でもないことはわかっている。
でも純粋にななしに頼られているブチャラティが羨ましかったのだ。
アバッキオは頭ではわかっていても、この感情だけはコントロール出来なかった。だからななしに対して思ってもいない悪態をついてしまっていた。
「ていうか、最近オメーでしゃばりすぎやしねぇか?」
『はぁ、私ですか?』
「そうだオメーのことだよ。」
『なんでアバッキオにそんなこと言われなきゃいけないんですか。』
「ギャングは男の世界なのに、女のオメーがでしゃばってんのが、俺は気に喰わねぇんだよ。」
アバッキオのその一言で、場が凍り付いた。ななしは自分が女だからと言って差別されることを、酷く嫌っていた。だから人一倍努力して、自分自身を見てもらおうとしていた。
そのことは、チームの全員、そしてアバッキオは誰よりも理解していた。なのに、感情に任せてななしが一番気にしている事を口走ってしまった。
『……そうですよね、…なんか、すいません…。なんで私、ここにいるんでしょうね。』
そう言ってななしは走って部屋を出てしまった。
その場にいたナランチャはどうすることもできず周りをキョロキョロしたり、ミスタはあちゃー、と額に手をつけていた。そして残りのジョルノ達は、アバッキオを哀れみの目で見ていた。
「アバッキオ、男の嫉妬は醜いですよ。」
「ななしは俺に対して何とも思ってなんかないさ。お前は心配しすぎなんだよ。」
「……。」
「全くブチャラティとジョルノの言う通りです。追い掛けるなら、今のうちだと思いますが。」
「………わかったよ!!」
そう言うとアバッキオは急いでななしがいるであろうななしの部屋に向かっていった。
「おい、俺だ。入ってもいいか。」
『………。』
「返事がねぇなら、勝手に入るぞ。」
ガチャリと鍵のかかっていない扉を開けると、こちらに背を向けて座っているななしがいた。
「さっきのことなんだが、言い過ぎた。悪かっ…『謝らないで下さい。アバッキオの言ってることが正しいんですよ。ここは女の私がいる所じゃあない。』
「……そんなことねぇよ。」
『私は、……私はただ、アバッキオの横に並べるようになりたくて……ッ!!』
ななしの震える声が聞いていられなくなったアバッキオは、勢い良く後ろからななしを抱きしめた。
「さっきは本当に悪かった!俺が勝手にブチャラティに嫉妬してただけなんだよ!オメーは何も悪くねぇよ!」
『アバッキオ……。』
「俺はオメーをちゃんと認めてる。俺だけじゃねぇ、チームの全員がオメーを頼りにしてんだよ。」
『……本当ですか?』
「あぁ、嘘じゃねぇよ。」
ななしが聞き返しながら後ろを振り向くと、アバッキオはその唇にキスをした。
「1人で頑張るのはいいが、もう少し俺を頼ってくれたっていいんじゃねぇの?」
『いや、迷惑になりたくなくて。』
「好きな女に頼られて、迷惑がる訳ねぇだろ。」
『…ありがとう、アバッキオ。』
そう言って笑うななしが本当に綺麗で、アバッキオは堪らずその口を塞いだ。深いキスに息も途切れ途切れになった所で、ようやくアバッキオはななしを解放した。
『私、仕事では女扱いされたくないのに、アバッキオにはこういうことされたいっておかしいですよね。』
そう言ってクスクス笑うななしを、アバッキオはより力強く抱きしめて言った。
「オメーのこんな姿、俺以外には絶対見せてなんかやらねぇから。」
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