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□2013.01
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斜め前に座る彼の後ろ姿を見るのが、私の習慣である。

彼の名は花京院典明。

花京院は普段は眼鏡をかけていないが、授業中だけ眼鏡をかけている。
斜めから少し見えるそれは、クラスメイトがかけているようなオシャレな眼鏡ではなく、ただ銀の縁があるだけのシンプルな眼鏡だ。

先生の話す言葉も右耳から入れば左耳から抜けていく。逆もまた然り。
ただぼーっと頬杖をついて花京院の綺麗な姿を見つめていた。花京院の目がノートと黒板を往復するたびに、赤みがかかった前髪と変な形のピアスが揺れる。


休み時間には、クラスは人の行き来する音だとか友達と話す話し声だとかで賑やかになる。

なのに、花京院は1人で読書に耽っていて、花京院の周りだけが静かな時間が流れている。

私は花京院がどんな本を読んでるのか気になって、わざと、でも自然に、友達に話し掛けることを口実にして前を通りかかった。

ちらっと横目で覗いてみると、本よりも花京院の目に目が行った。

下睫毛長ぇーなとか、目に傷があるんだとか思っていると、ふと文庫本から顔を上げた花京院と目があってしまった。

もちろんあっちはキョトン顔だったけど、私は何だか照れ臭くて目を反らした。花京院の顔を後ろから見るのは慣れていても、正面から見るのには慣れていない。




授業中、いつものように花京院を見ていた。
すると、机の端にあった消しゴムが腕にあたって転がって行ってしまった。着いた先は花京院の足元だった。

私は思わず、あっ、と声をあげてしまったために、花京院も私の消しゴムの存在に気が付いた。

花京院は板書をとる手を止めて、足元にある私の消しゴムをゆっくりと拾った。そして、私の方を振り返って消しゴムを手渡してくれた。

「はい、落としたよね?」

『あっ、うん。ありがとう。』


必要最低限の会話をして、私が花京院から消しゴムを受け取ろうとすると、花京院は手の上にのった消しゴムを握った。

私が意味がわからない、という顔をしていると、花京院は少し笑って眼鏡のレンズから視線を覗かせた。


「僕のこと、いつも見てるでしょ。」


ぼっと顔が真っ赤になる私にまた笑って、花京院は消しゴムをそっと私の机の上に置いた。





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