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□2012.11
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出てくからッ、

いつもの喧嘩では私が仗助に出ていって、と言って仗助が家を出ていくのが普通だった。

その時の彼は、怒っている私を逆撫でしないように無言で家を出て行き、夜に喧嘩をすれば次の日の朝にはリビングのソファに眠っていた。
その頃には私も落ち着いていつの間にか仲直りをしていた、というのがいつものパターン。



でも今回は逆だ。私の方が出ていく、と言っている。
その言葉を聞いた仗助は余程驚いたらしく、元々大きな目をますます大きくしていた。

初めはいつものように出ていってと仗助に言いかけていたが、今回は私の方が悪いと自分でわかっていたから自分が出ていくことにした。



今回の喧嘩の原因は、私の誕生日にあった。
「もう俺たちもいい年なんだし、誕生日に何かするのもそろそろ止めにしない?」

仗助が私の誕生日を祝っている中でそんなことを言い出した。



確かにそうだ。誕生日が来て喜ぶような歳はとっくに過ぎているし、むしろ歳をとるのはイヤだ。
でも仗助に誕生日を祝われるのだけは私は好きだった。

お互いに忙しくて誕生日当日にとはいかないけど、少し高めのレストランで食事をしながら他愛ない会話をする。
この時は最高に幸せで、これならば歳をとるのも悪くないと思えた。


それなのに、仗助は止めようとか言い出した。きっと私に気を使ってくれたんだろうけど、私はすごく寂しかった。
だから感情のままに仗助にあたり散らして、喧嘩になった。




仗助は必死に私を止めようとしたけど、私は構わず財布と携帯だけを持って玄関を出て車に乗った。
この車の運転席に座るのは久しぶりで、いつも仗助の隣に自分が座っていた助手席に財布と携帯を投げる。


宛てもなく運転している間にも、隣の携帯に仗助からの着信を知らせるライトが何度も点滅する。
電話が来ても意地になっていた私は絶対に出てやらなかった。

いくつものコンビニや自動販売機の明かりを追い抜いていく。でもいくらスピードを上げて仗助のことを忘れようとしても、幾度となく仗助を思い出させられた。


この杜王町には仗助との思い出が多すぎる。


学生時代によく寄り道していたコンビニ、初めてキスした公園、いつも2人で待ち合わせをする喫茶店、この前ソファを買った家具屋さん。


こうして考えると私は仗助といつも一緒にいた。彼のいない生活なんて想像もできなくて、私はもう仗助なしではいけないらしい。

そう実感したら仗助が恋しくなって、無性に会いたくなる。




その時仗助からの何度目かの着信がきた。私が電話に出ると、仗助の弱々しい声が耳元から聞こえた。


「さっきはごめん。今どこにいるんだ?危ねぇから帰ってこいよ。」

『じゃあ私がおばあちゃんになっても誕生日祝って。』

「わかった。お前が何歳になってもちゃんとおめでとうって言うから。」

『絶対ね。その代わり私もあんたがおじいちゃんになっても誕生日祝ってあげるよ。』






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