「おいななしー、英語の宿題写さしてくれよ。」
『また?ていうか、教えてくれじゃなくて写さしてくれって……。ちゃんと宿題くらい自分でやりなさいよ。』
「そう言わずにさー。」
『しょうがないな、次は見せてやんないから!』
そう言いながらもななしは結局仗助に宿題を見せる。
仗助とななしは幼い頃から一緒に育ってきて、物心ついたときからななしが世話のかかる仗助の面倒を見てきた。
仗助はいつでもななしが傍にいて自分を助けてくれるという今の関係に甘えていた。
少なくとも仗助のことがずっと好きなななしはこの関係をイヤとは感じていないが、もうそろそろ2人の距離を縮めたいところである。
でも、まったく自分の気持ちに気付いてくれない仗助に虚しさを感じていた。
「なぁ仗助。おまえんとこのななしちゃん、最近男子に人気なんだぜ!」
「なに言ってんだ億泰、あいつのどこがいいんだよぉー。」
「お前は近すぎて気付かねぇの!
あの媚び売らない感じとか、時々見せる笑顔が可愛いって評判だ。あっ才色兼備だしよ。」
「ふーん。」
「上級生も目をつけてるって噂だってたってるんだぜ。」
仗助は億泰の言葉を最後まで聞かないまま、ぼうっと教室にいるななしに目を向けた。
───たしかに、あいつは頭も顔もいいし優しいから、モテるのも当然かぁ。
そう納得する自分もいるが、心の隅ではななしが自分以外の奴に認められていることが気に食わなかった。
『仗助、帰ろうッ!』
「おう今いく。」
いつものように2人並んで同じ方向にある家を目指す。すると、ななしが急に真剣な面持ちで話し始めた。
『ねぇ、私今日先輩に告白されたんだ…。』
「へー、お前でもいいって言う奴いるんだなぁ。」
『ひどっ!……でも私どうすればいいのかな?』
ななしとしては好きな人である仗助に断れよ、とかあんな奴やめとけ、だとか自分を引き止めるような言葉をかけてほしかった。
しかし仗助は「べつにいいんじゃね。付き合えば?」とそっけない態度で答えた。ななしから仗助の表情は見えない。
そんな仗助の態度に、今まで我慢していたものが溢れてきたのかななしは、突然足を止めて、仗助に向かって叫んだ。
『わかった、私先輩の告白受けるからッ!
もう仗助の世話なんて見てやんない!仗助の世話係やめられて、ホントせいせいするッ!』
そう言って走って自分の家に入っていくななしを見て、仗助は拳を握り締めていた。
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