「なぁ俺、ななしのこと好きみたいなんだ。付き合わねぇか?」
『いいよ。』
仗助は正直驚いた。ななしがあっさりと自分の告白を受けたからだ。
2人は幼なじみで、物心ついた時から一緒にいた。だからこそ今までは異性としてお互い接することはなかった。
しかし、最近になって仗助は自分のななしへの恋心に気付いたのだ。
(今さら好きなんて言ったら、あいつ困っかな?)
仗助は仗助なりに考えて考えた末にななしに告白をした。
本当はもっとステキな告白を思い描いていた。ななしの顔をみたら頭が真っ白になり、淡白な告白になってしまったが…。
「マジで!?」
『うん、私も仗助のこと好きだったし…。』
「…グレートだぜッ!!!」
仗助は思わずななしのことを抱きしめてしまったが、冷静になって自分のしていることに気付くと顔を真っ赤にして体を離した。
「ごっごめんなっ!つい嬉しくって…。」
ななしの顔を見ると、ななしも仗助くらい顔が赤かった。
お互いに真っ赤な顔で目があうと、どちらからともなく笑いあった。
「さっそく一緒に帰ろうぜ。」
『いいよ。』
「あと…、手繋いでもいいか?」
『あっ、あたりまえじゃん!』
2人してお互いに見慣れた道を通って、下校する。一緒に帰るのは、付き合う前からしていたので真新しい感じはしなかったが、2人は幸せだった。
いつもと同じ景色が、ロマンチックに見えた。
「仗助くん、グラウンドにななしさんいますよ。」
「あぁ。」
「なんか元気ないですね。どうしたんですか?今幸せなはずじゃないですか!?」
頬杖をつきながらぼーっとグラウンドを見つめる仗助に、彼の親友である康一くんが話し掛けた。
「幸せっちゃあ幸せなんだけどよー、なんだかなぁ?」
「なにがあったんですか?」
「あいつって俺のこと男として見てねぇ気がするんだ。」
「えっ!でも仗助くんのこと好きって言ってくれたんでしょう?」
「まぁそうなんだけどよー。でも付き合って3ヶ月も経つのに、手繋いで一緒に帰るだけなんだぜ?」
「そうか、そうか!仗助はななしちゃんともっとやらしいことしたいんだな!つまり。」
突然仗助と康一くんの会話に億泰が交ざってきた。
グラウンドをずっと見つめていた仗助も驚いてななしから目を離すと、億泰のほうを見た。
「なぁそうなんだろ?仗助?」
ニヤニヤしながら聞いてくる億泰には、少しイラっとしたが仗助は続けた。
「まぁ簡単に言うとそうなんだけどよ。」
そう言うと康一くんの顔は赤くなった。
「初めは手繋げるだけで、一杯いっぱいだったけどよ、一緒にいればいるほどもっと近づきたいって思うんだ。」
「僕は由花子さんの気持ちに答えるだけで一杯いっぱいですけど。」
「由花子とななしを一緒にすんな!!
そういう風に思ってんの俺だけみたいだし、俺ばっかり好きみたいだ…。」
「ヨシッ、仗助!ななしちゃんに今日キスしろッ!」
「無茶言うなよぉー。」
「今やらなきゃ男が廃るぞ。」
「仗助くん、頑張ってください!」
「ッ…、わっわかったよ。」
――放課後
『仗助ッ!帰ろう!』
「おっおう!」
教室のドアから顔を覗かせるななしを見て、億泰と康一くんは目で仗助を応援した。
そしてななしの家の前についた。
(ここでやるしかねぇッ!!)
『ありがとう、仗助。バイバイ。』
別れの挨拶をしても一向に動こうとしない仗助の様子をおかしいと思ったななしは仗助の顔を見上げると、仗助は真剣な視線を向けながらななしの肩を掴んだ。
『ちょっ、どうしたの?仗助?』
「なぁキスしねぇか?」
驚きで目を見開き動けずにいたななしに仗助は顔をどんどん近付けていく。
『ちょっ、イヤッ!!仗助ッ!!』
ななしに拒否された仗助は顔をななしから離しながら、とても淋しそうな顔で薄く笑った。
好きな人から拒否されれば仗助といえでも、相当傷ついた。
「あはは、驚かせてごめんな。もうしねぇから……。」
『あっごめん。違うの仗助ッ!』
ななしの声にも耳を貸さずに、仗助は帰っていってしまった。
その日から2人は一緒に帰らなくなってしまった。それだけでなく、廊下であっても目を合わすことも、話すこともなくなってしまった。
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