黒き
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家光はしばらく呆けたように壁に刺さった包丁を見つめた。
「家光さん」
そして、黒く圧迫感を含んだ声で呼ばれビクッと肩を震わし恐る恐る声のした方を見る。
居たのは奈々だ。何時もの優しくまるで大空のように全てを包み込む笑顔は綺麗さっぱり消え去り、とてつもない黒々としたオーラを放っている。
「ッッッッな、奈々……」
家光は、ダラダラと冷や汗を流し口からなかなか声が出てこず、やっと出てきたかと思うと弱々しいほどにかすれていた。
「家光さん、さっきツッ君になんて言ったのかしら」
奈々は笑みをより黒くするとゆっくりと家光に近寄った。家光は気持ち的には後退りたいものの、プライドが邪魔をする。
家光は、ガクガクと震え始める足を叱咤し果敢にも対立した。
しかし、それは勇気のある行動……なのではなく愚かな行動だ。
「奈々、お前は知らないのかもしれないがツナは女の子を虐めてるんだ!!」
家光がきっぱり言うと奈々は目を細めた。
そして、家光ではなく壁に近付くと突き刺さった包丁を抜く。
スッと壁から何の抵抗もなく抜ける包丁。あれほど、深く突き刺さっていたのに有り得ない。
「家光さん。あなたはそんなアバズレ女の戯言を鵜呑みするの」
包丁を持った奈々は家光に向かって黒く微笑んだ。
「ア、アバズレって……奈々」
家光は口端をひきつらせた。
しかし、奈々は包丁を使いなれたように持ちきっぱり言う。
「あら?事実でしょう。だいたいあのアバズレ、ツッ君に襲われたなんて言っておきながら男にベッタリしてるらしいじゃない」
奈々の言葉に家光は意味が分かってないのか頷く。
「そうだ!!ツナはあろうことか嫌がる女の子を襲ったんだ。人間として最低だ!!」
奈々はため息をつく。どうしてこの馬鹿は矛盾に気付かないのかっと呆れて出たため息だ。
「家光さん、残念だわ。以前のあなたはこんなに馬鹿じゃなかったはずよ」
「奈々……お前はそんなにツナを庇うのか!!それなら俺にだって考えがあるッ!!」
奈々が黒いオーラをわざと納めると家光は懐から紙を出した。その紙はどうやら離婚届のようである、すでに家光のサインが入っている。
奈々はその離婚届を見ると顔を俯かせた。
家光は勝ったとばかりに口端をあげた。
しかし、奈々から先程とは比でもない黒いオーラが漂う。
「ふふふ、うふふふ」
地へと響き渡るような奈々の笑いが部屋に響く。
リボーンは、自分を抱えてるツナの腕をギュッと握る。
「な、奈々?」
家光が名前を呼ぶと奈々は顔をあげた。その顔は魔王女である。
「おい、家光!!テメェ、離婚届出されたくらいで私が大人しくなると思ってんのかッ!!」