短ブック
□その距離、実に30cm
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それは何時からだったのだろう。
本が好きな私は学校が終わるとすぐにその図書館に行っていた。
日当たりのいい、2階の窓辺で本を読むのが好きだった。
中学生の時に見つけた、私の心地いいと思える大切な場所。
家にいるよりも心地良く感じた。
自分で言うのも何だが、私はこの景色の一部だ。
それが何時からだろう。
気づけば私の座っている位置から通路を挟んで斜め前の席に座って本を読む人物がいたのだ。
ただ静かに本を読んでいた。
まるで私がこの景色の一部になる前から居たようだった。
彼のまわりには、私と似たような本を慈しむ気配が感じられた。
だからなのだろうか、余計に彼を近い存在にとらえていた。
図書館に来るものはみな2階よりも涼しい1階に居たからこの空間にはいつも二人っきりでいた。
ただお互い、何か言う訳でもなく閉館時間になると帰っていく。
それが私と、名も知らない彼の日常風景だった。
でもそれが・・・どこか心地良かった。
一度彼をじっくりと見たことがある。
彼は手に本を持ったまま眠っていたのだ。
形の良い眉、スラッととおった鼻筋、少し長めのまつ毛、薄い唇。
世にいうイケメンだった。
その日はイケメンだという事で自分に似たものがあるというのを疑った。
しかし次の日にはこの心地いい空間を共有している者として、やはり近いものがあると再確信した。