お題ブック

□歩幅
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少し先を歩くローにたまに悲しくなる時がある

身長差がそのまま反映するように歩幅だって違う

小さな私の3歩分がローの1歩

早歩きで歩いても隣に立って歩く事が出来ない

意味もなく泣きそうになった

なんでって言っても理由は転がってないし・・・

いつだって追いつけないその背中に憧れを抱いた

その背中を守ろうと、誓った

でも恋人同士になった今ではその隣にいたいと思うのも当然で

それはわがままで・・・・

ピタリ、と足を止めて立ち止まる

それでも先に進むその背中にそのまま置いて行かれるように感じる

あ、これが理由なのかって今気付いた

『ローの隣に立てない』

ぎゅっと唇を噛みしめて俯く

ああ、このまま気づかれないのか

結局私はその程度なのかってめんどくさいにも程がある思考に陥る

こんなにめんどくさい女、ローもヤダよね

女々しいのは嫌いだよね

考えすぎではないのかって思われるかもしれないけど今はそこまで頭が働かないんだよ・・・

金縛りにあったような体はローの元まで走る事をしない

「ミコト」

「っ!」

突然呼ばれた名前に、声に私は顔を跳ね上げる

「何してんだ、はやく来い」

立ち止まり、こちらを真っ直ぐに見るローに私は目を見開く

それでも動こうとしない私を不審に思ったのかローは眉をひそめる

なんで気づいたのか、なんで待っててくれるのか

そんな事ばかり頭の中をグルグル回った

「・・・・・はぁ」

溜息をつくローにビクリと震える

もしかしてめんどくさいと思われたのではと怖くなった

離れていくのではと

しかしローは反対の行動をとった

私の方まで近づいてきて右手を握った

「ロォ・・・・・」

「こんなとこで立ち止まってんじゃねぇよ。行くぞ」

「あ・・・・」

その手に引かれるがままに動き出した足を片方ずつ進める

優しく引いてくれる手とローの顔を交互にみる

すると気付いたローが私を見下ろす

「なんだ?」

「ん、う、ううん・・・なんでも、ない」

下に俯き、顔を隠すようにする

すると気づいたのだ

無理する事なく開く自分の足と、少し小さくなったローの歩幅

歩く速さも先程よりもゆったりとしたものになっている

心がホッコリと温かくなった

顔が熱くなって口元が小さく円を描いた

「・・・・あり、が・・・とう」


歩幅


「ん?何がだ?」

素知らぬフリを決め込むローは知っているのだ

私が背伸びしても追いつけない距離に泣きそうだったのも

「全部」

「フッ、全部ってなんだ」

「全部は全部、だよ」

「ふ〜ん」

素っ気ない返事をするけど、繋がれた手は温かくて同じになった歩幅はとても心地よかった

END

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