お題ブック
□真夜中
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私は恋人と同棲している。
あの日のことは忘れない。
忘れることなんてできない。
『俺らはまだ若い。結婚なんて縛り付け、邪魔なだけだろ?』
『でも俺はお前が欲しい。・・・だから、俺と一緒に住んでくれないか。』
あんなにも嬉しかったことはない。
大学生2年生のあの時から私たちは同じ場所を共有するようになった。
数年して、彼は大きな病院の有名な医者になった。
今では大きな手術ではかならず執刀医を務める程に。
とても嬉しいことだが、悲しくもある。
普通の会社に務めている私と彼とではあまりにもすれ違いすぎる。
彼は病院に泊まることが多いし、休みだってあまりない。
私は規則正しい生活をしているから、彼が帰ってくる時には寝ていることが多いし、私がいる時は彼が寝ていることが多い。
それでも、彼を愛してしまったから。
もう、彼以外愛すことなんてできない。
「ふぁ・・・・もう日付が変わっちゃう・・・。」
珍しく帰ってくるのが遅かった私が時計を見ると11時50分。
「む・・・り・・・・。」
バフンッとベッドにダイブすれば容易に受け止めてくれる。
鼻先を掠める彼と私の香り。
その香りにウトウトしてしまう。
☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆
「・・・い・・・・おい、起きろ。」
「んっ・・・・ロ・・・・ォ?」
「眠いか?悪いが少し起きてくれ。」
「・・・ん。」
チュッ・・・と優しく額にキスを落とすロー。
「お仕事は?」
「そんな事はどうでもいい。」
「?うん。」
ベッドの上に座った私の正面に座るロー。
「ミコト・・・。よく聞いてくれ。」
私はその真剣な声に静かに頷く。
「俺たちが恋人同士になって何年たつ?」
「・・・8年位?」
「じゃあ俺たちが一緒に住み始めて何年たつ?」
「・・・4年位。」
私がそう言った後、ローは優しく手を握ってきた。
「そうだな・・・。俺たちは長い間一緒にいた。誰よりも、だ。」
そう言って優しく笑うロー。
当時はあまり見ることが出来なかったものだ。
「高校でお前と出会い、付き合った。俺にとったらそこから奇跡がはじまったんだ。・・・奇跡なんて言うガラじゃないんだがな。」
だんだんとぼやけてくる視界。
「大学に入ってお前と一緒に住み始めた。前まで知らなかったことも見えるようになったし、お前が家事が得意なことも知った。」
「・・・っう・・・ん。」
頬を流れる冷たい滴を指の腹で拭ってくれる。
「社会人になってからは一緒に住んでいるにも関わらず、すれ違いの生活をしているな。」
「う・・・・ん。ひっく。」
私の髪を優しく梳いて、それから今までで一番真剣な顔をする。
「あの頃の俺たちには重すぎた言葉だ。でも・・・・今なら言える。」
一呼吸置いたのち、ローはたった一言。
「俺と結婚してくれ。」
目の前に出されたのは光り輝く指輪。
「っ・・・・うっ・・・は・・・い。」
私の言った言葉にローはホッと安心したように笑って私の指に指輪をとおした。
そのローの指にも、光り輝く同じ指輪。
真夜中
「フフッ・・・・12時ぴったりにプロポーズって。」
「ロマンチックだろ?」
「うん。・・・・とびっきり。」
「・・・ミコト・・・かならず幸せにする。」
「うん!私もローのこと幸せにするね。」
「クククッ、ああ。」
END