ペンギンブック

□ナイフを握りしめたミクロの心
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「ペンギンペンギンッ」

パタパタとかわいらしい音を立てて走り寄ってくる俺の彼女

その彼女自身もとてもかわいらしい容姿をしてる

俺も仲間たちと話してるのを中断してそちらを見る

からかってくる周りの奴らを手で追い払う仕草をする

その間にも近づいてきた彼女は俺の斜め後ろに立つ

「さっさと仕事いけ」

ニコニコ笑っている彼女にほんの少し冷や汗が流れそうになる

「へいへい、ペンギンもいってねーでさっさと仕事しろよー!」

「さっさといけ!!」

俺がそう怒鳴ると他のやつらは散って行った

「ふふ、ペ〜ンギンッ!」

「っ!」

俺に体当たりをするような要領で抱きつこうとしたセレナを避ける

「・・・・何で避けるの、ペンギン」

目元に影を落とした彼女は俺を睨むように見る

だが俺の行動も当然だと思う

何故って・・・・

「おかげではずしちゃったじゃん」

そう言ってセレナが自身の胸の高さまで上げたはナイフ

そう大きくないが先程の力でぶつかられれば致命傷になりかねないものだ

「・・・セレナ、それは普通避けるぞ」

「だめよペンギン。ペンギンが悪いんだもの」

目は笑ってないのに口元だけは綺麗な弧を象っている

作り物めいているのにどこまでも綺麗な形をしている

俺はそれに喉を小さく鳴らして声を出す

「何か、気に障ったんだな?」

「ふふ、さすがペンギ〜ン。やっぱり私の事なんでも分かるのね!」

話題から逸れた事をいきなり言いだすのはいつもの事だ

それに心の底から本当に嬉しそうに笑うから俺も何も言わない

ああ、だが手を顔の近くに寄せているから必然的にナイフも近くなって頬が切れそうだ

彼女の頬は綺麗だし女の子だからな

海賊だとしても傷がつくのはいただけない

しかしそれもつかの間

セレナから少しずつ表情が抜けていき、ついに無表情になる

そこからは確かに怒りが感じられ、肌がピリピリと痛む

「ねぇ、ペンギン」

コツッ・・・と一歩俺に近寄り、見上げてくる

ナイフは今は逆手持ちで下されている

「なんですぐに私のとこに来なかったの」

「あいつらに仕事するよう釘さしとかないといけないだろう」

「別にそんなのいいよ。後で私がきつく言うからペンギンはそんな事しなくていい」

その言葉はそっくりそのまま俺の言葉ではないか

だが今は言わない

セレナの機嫌を今、損ねる訳にはいかない

「ペンギンは私のなんだから、ねえ?」

それは疑問形のようなのに否定をさせない、『Yes』しか許さないものだ

「・・・・ああ、俺はセレナのものだ」

「ね!そうでしょ!私ペンギン大好き!だから一杯我慢もしてあげてるんだよ!」

ナイフは放さないままセレナが俺にすがりつくようにする

一歩下がりかけた俺のその距離でさえ彼女はすばやくつめた

「ペンギンがお仕事してる時はなるべく邪魔しないようにしてるし他の人と話してるのも許してあげてる!ペンギンとずっと離れずに一緒にいたいのも我慢してるし部屋に閉じ込めたいのも我慢してるっ!」

怒涛のようにしゃべり続ける彼女はそれでも足りないように息継ぎをヒュッとしてまた続ける

「ペンギンに誰か近づいたらダメ、話てもダメ、触っちゃダメ見ちゃダメ私のペンギン繋がなきゃどこにもいかないようにしなきゃ近くにいなきゃっ」

そして最後には泣きそうな顔をしながら恍惚としたような声で言うのだ

「殺して、私だけのものにしなきゃ・・・・」

カタカタと震えるナイフの音が聞こえる

それでも俺はどこか冷静で、他人事のようで自分の事だと自覚している不思議な気分だ

「セレナ、俺をそんなに殺したいか?」

それに彼女は無言で目だけを異様に輝かせて首がとれそうな程上下に振るのだ

ナイフの背が体にぐっとあたるが、それにすら俺はあまり反応しなかった

いや、反応する『必要がない』のだ

「俺は、殺されたりする事はできないな」

「・・・・・ゃ・・・・・」

か細く聞き取れないような小さく短い否定

それをかき消すように俺は続ける

「俺は、お前が好きだからな」

「ぅ、うん・・・・・うんっ!!!」

力強く嬉しそうにするその態度で、それでも彼女はナイフは放さない

だが調度いい

そのナイフは今の俺にとっては好都合な道具だ

彼女の手ごと掴み、ナイフの刃を彼女の首筋に緩くあてがう

「っ!」

その行動に驚いたのか目を見開くセレナ

不安そうな顔をする訳もなくうっとりとしてるのは彼女なりのお約束という奴なのだろうか

「俺だって、お前を殺してしまいたいよ」


ナイフを握りしめたミクロの心


彼女が俺を狂おしい程に愛すように俺だって愛してるんだ

同じだけ、それ以上に愛をかえすのは当然だろう?

俺は小さく口の片方をあげる

ドップリとハマリこんでくれた彼女に対して

俺だけを見てくれる彼女に対して

ここまで作り上げる事の出来た事に対して

目を細めて喜びを表す彼女は俺の胸においていた片方の手を背に回す

俺も彼女の背に手をまわす

・・・・前に一つしなければいけないな

俺が望むのならとナイフで喉を掻っ切ろうとする前にそれを捨ててしまうことをな

END
 

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