短編

□天満月
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月が雲の隙間から覗く度、淡い光が差し込んだ。
すると手に持った盃の中の水面に丸い月が映り込み、
それを見て元就は満足げに目を細めた




「一人で月見酒なんざ洒落てんなぁ毛利」



自分にかけられた声に振り返らず
少しだけ盃を傾けると、銀色と紫が映った。



そして声の主が自分の後ろに来たの同時に月が隠れた


「長曾我部…そなたのせいで月が隠れてしまったわ」


恨めしげに横目で見ながら言うと、元親は呆れたように肩を竦めた



「毛利よぉ」

「………何ぞ」

「アンタもたまには部下を労ったらどうだ」

「何故我がそのような事をせねばならぬ」



何を言い出すと思えば

ふんっ、と鼻で笑うと、元親は元就の盃に酒を足しながら続けた




「いつか本当に一人になっちまうぞ」

「捨て駒に情を掛けられる程、我は暇ではない」




そう、所詮は他人
使えるだけ使って後は終わり。


ふと盃に目を落とすと、そこには再びゆらゆらと月が揺れていた


石田と同盟を組んでから、どうもこの男は大人しくなった

……いや、落ち着いたのか



「…元親」

「ん」

「我に寄れ」



小さく命令するように言うと、
元親はおう、と短く言い身体を寄せた


嫌そうな素振りをみせないので黙って身を委ねると、
肌寒い風がそって撫でた





もうすぐ秋が終わるからか、一斉に鳴き出した鈴虫の音に耳を澄ませる


静寂の中で奏でられる音。

まるでこの世には自分とこの男しかいない、そんな錯覚をしてしまう


その幻想的な空間が少し恐ろしくて、思わず身震いをした




「寒いか?」


それを勘違いしたのか、優しく肩を抱いてくれる大きな手

この男が何故あれ程までに皆に慕われるのか、よくわかった



「……たとえこの先我が独りになろうとも、そなたがおるならそれで良いわ」


「俺はお前を独りにゃしねぇよ、絶対」




肩越しの熱が、暖かい





「我に誓うか?長曾我部」

「いいぜ」




それを聞いて、満たされていた盃の中を一気に飲み干した

カッと喉が熱くなるのを感じながらも、何故か今日は酔いたかった
……そういう気分だったのか



月光に透けて輝く銀髪に指を絡めながら空になった盃を置き、



「もしそなたが我を置いていったりなどしたら後世まで付き纏ってやるぞ」



微笑しながら言うと、
これまた何が面白かったのか、そりゃ勘弁と元親は至極愉快そうに笑った。








End
(だけどどうやって付き纏うんだぁ?)

(大谷にでも頼んで呪ってやろうぞ)

(冗談に聞こえねぇな)

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