短編

□甘く痺れる
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舌で触れると、
ぴりっと小さい痛みが走った。



「…いってぇ」

「らしくない顔をしおって」

「口ん中によぉー…」



可笑しな表情をしていると、
珍しく元就が気にかけてくれた。



口の中に何かできてる
そう顔をしかめながら伝えると、

我が見てやろうという元就に言われるがまま口を開くと、
あまりにも真剣な顔をして様子を見てくれるもんだから、思わず顔を背けてしまった。



「……何ぞ」

「悪ィ」



慌てて謝罪するも、
やはり気分を害したようでムスッとしてしまった。


「で、何だった?」

「ただの口内炎ぞ」

「んじゃあ塩塗っときゃ治るか」



どうりで昨晩から食事をしていた時、何やら違和感を感じたわけだ

気付いたら、口内炎はできている



「ありがとよ、元就」

「…礼ならこれで良いわ」
「あ?ふっ」



いきなり胸ぐらを掴まれたと思えば、そのまま強く引き寄せられた。

つかの間唇に触れた柔らかな感触が、元就の物だと気づくのに少しかかったが
まるでねだるように自ら唇を開くと、待っていたとばかりに深く、キスをする


弱く、時より強くそこを押され
快楽か痛みなのか分からぬまま
ただその行為をどうしても不快だと思えずに、腕を回した



「はっ……」


自分がただ流されるだけなんて
こんなのガラじゃない。 そんな小さい抵抗心からだ



名残惜しく離れた元就は やけに満足そうな顔をしていた



「嫌ではないのか」

「……さぁな」







まだ熱い口の中で
痛みだけが甘く痺れた。





end

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