短編
□月の光が墜ちる
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「……刑部?」
やれ起こしてしまったか、と目をやると
いつもと変わらぬ不機嫌そうな顔をした三成が、小さな声で何処へ行く、と言った
「いやなに、用事を思い出したのよ」
言いながら三成の細い銀髪を指で梳いてやれば、
一度眠りについたのに、まだ消えてはいないのか
かすかに情欲を揺らした双眸が、一瞬、細くなった
「日が昇ってからでは駄目なのか」
「そうよなぁ…半兵衛様の言葉を借りれば、われには時間がないのよ」
「…戯れ事を」
己の病の事など、自分が1番よく知っている
三成もそれを承知しているはずなのに、馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑った
「徳川との戦は万全で、その方がぬしも良いであろ?」
「…っ家康」